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□守ってあげるから。
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あの馬鹿ウサギの謎の告白から一年と少し。
俺は相変わらずだった。

"冷徹人間"?
"人情のかけらも無い"?
どうとでも言いやがれ。
ザコに目を向けてる暇は無い。
俺はエクソシストだ。
アクマを斬るだけだ。
人との馴れ合いなんて求めない。
もしそれが手に入ったところで何になる?
それで伯爵は消え、アクマは存在しなくなるか?
違うだろ。
だったら何の意味もねぇじゃねーか。
それに、人を愛するのは・・・


億劫だ。


「ユウ!おい、ユウ!!」

「あ・・・?」

名前を呼ばれて振り返ると(無愛想な返事をしたのは下の名で呼ばれたから。いや、そもそも俺に愛想なんて無いのだが)、団服姿の馬鹿ウサギがいた。

「俺今から任務さ!
またしばらく会えなくなっちゃうね。」

「すれ違いで任務入ったりするしな。」

「だね。
次はいつ会えるんかなー?」

「別に会わなくてもいいだろ。
そんなに大した話しねーし。」

「イヤン!ユウ酷い!!」

「酷いのはテメーの頭だよ。」

ぽつりぽつりと何気ない会話をしながら(これが俺達の"何気ない会話"なのだ)、奴の表情を伺った。
・・・笑ってる。
馬鹿みたいに笑っている。
前々から馬鹿だとは思っていたけれど(ちなみに俺は馬鹿じゃない。絶対。)、こう、へら〜っと笑うと更に馬鹿に見える。

「バーーカ。」

「はっ?!何さ?!
いつにも増して突拍子の無い暴言!!」

「馬鹿に見える。その顔。」

「いやいやユウさん・・・ごめんだけど俺、実は産まれた時からこの顔なんよ・・・。」

「へー。不憫。」

「ちょっ!!言わせておけば・・・!!
・・・もー・・・次いつ会えるかも分からんのにさぁー・・・。」

その言葉に、俺は眉をしかめた。
(いつもしかめてるけど。)

「何でそんなに会いたがるんだよ。
俺そこら辺がよく分かんねー。」

そう言うと、目の前のへらへら顔のウサギは、ふわりと微笑みながら言った。


「好きだから。」


・・・好きだから。
いつもこいつはそればかりだ。

「・・・気持ちわりー。」

「俺の一世一代の愛の告白がッッ!!」

「一世一代の意味分かって言ってんのか?
一生に一度だけって意味だぞ。
お前何百回言うんだよ、しつこい。」

「まぁこの子!!冷めてるわーやだやだ!!」

「好きなのか嫌なのかハッキリしろよ。」

いい加減めんどくさくなってきた会話に終わりを告げる為言った言葉に、やはり奴は笑った。

「もちろん好きさ!」

また言いやがった。
"好き"。
そんなの言われ慣れていないが、その言葉は深く俺の中に染み込んでいくようだった。

普遍的な・・・
そう、広大な海のイメージ。

だから多分、嫌いな言葉じゃないんだろう。
こいつの事も、嫌いなわけじゃないんだろう。

「・・・そろそろ行けよ。
ファインダー待ってんぞ。(実はファインダーなんか知った事じゃない。イノセンスの回収に遅れが出ることが嫌なだけだ。)」

その馬鹿ウサギは、ラビは、少し寂しそうな顔をした。
効果音にするなら、しょんぼり。

「行ってくるさぁ・・・。
俺がいない間にあんま怪我すんなよぉー・・・。」

「こっちの台詞だ。
また骨折って帰って来んじゃねーぞ。」

ラビは心配されて嬉しいのか(心配して言ったつもりは無いのだが。むしろ皮肉なのだが)、ぱぁっと顔を輝かせて敬礼した。
(左手で敬礼してた。敬礼は右だ。やっぱり馬鹿だ。)

「りょーかーい!
ユウの為に愛の花束持って華麗に舞い戻ってくるさ!」

「やっぱ骨折れ。」

「辛辣っすねユウさん!
安心して、無傷で帰ってくるよ。
んじゃ、行って来まーす。」

ラビはキラキラ笑いながら、俺に手を振った。

「(帰ってくるっつったってそん時俺がいなかったら意味ねーけどな。)」

心の中でつぶやいて、あいつの背中を見送った。

・・・―――後々思えばその時、俺は奴を止めておけば良かったのだ。
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