魂と共に

□二章
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 「帝、俺を置いて行くなよ?」


水を打ったような静けさの中、和仁はようやくその存在を主張した。



 空気を風が斬ったような、凛とした声。



 「何、言って…」


オレはどこにも行かねーぞ。



 下手な笑顔を作り、帝は和仁に言葉を放つ。



 だが、帝は自分でも、見え透いた嘘だな、と思った。



 「独りにさせないっつったのは、お前だろ?」




 過去、遠いようで近いあの日。


二人は互いに、約束をした。




 「約束は、守らねぇとなぁ?」


口元を意地悪く歪めながら、和仁は楽しそうに笑う。



 その言葉に、帝とオズは目を見開いた。




 頭のいい和仁の事だ、粗方察しているだろう。


これから何が起こるのか、帝がどこへ行くのか。



 信じられない出来事でも、和仁は分かっているはずだ。



 それでも尚、帝と共に行くと言うのか。


恐れはないと、そう言うのか。




 「和仁、オレが行くのは…、戦場だ」


帝の、着いてくるな、という意味を込めた言葉にも、和仁は笑った。



 「それで?」


軽い調子で聞き返され、帝は言葉を失う。



 それで、と問われてしまえば、何でもない、としか返す言葉は思いつかなかった。



 「役に立つと思うぞ」


そう和仁は言った。



 彼は頭がいい。


そして、薬草に詳しく、病気や毒、怪我などの治療にも通じている。



 役に立つ。


確かにそうだ。




 しかし、…しかし、だ。


連れては行けない。


連れて行くわけには、いかない。



 「…お前は、一般人だ」


帝は引かなかった。



 折角平和な、明日の確信が持てる日本という国に生まれたのに、なぜわざわざ危険な場所に連れ出さねばならないのだ。


平和な世界で、平和に生きていてほしい。



 これは、エゴだろうか。




 「お前もな」


しかし、対する和仁も引いてはくれなかった。



 「……っ」


こいつには何を言っても、勝てる気がしない。



 帝はあっさりと、肩の力を抜いた。



 そうだ、昔から勝てたことなど一度もなかったじゃないか。


言い返すだけ無駄だと、何故気付かなかったのだろう。




 「…オズ」


観念したように、帝は彼の名を紡ぐ。



 「あぁ、そうだな」


オズも諦めたような表情で、少し笑った。




 和仁は、綺麗だ、と素直に思う。



 この二人は、本当に綺麗だ、と。
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