主。

□第五章
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そのあと、なんだかんだあって一週間近くお泊りさせてもらって。
どうやら、彼らは8人で同居しているらしい。
一応食事は出来るだけ一緒に取ろうというルールでもあるらしく、(あれ?前に夕食おごってもらったような、という考えは桜の中には無い)食事の時に顔を合わせるので、顔と名前は一致するようになった。

私を除いて、8人。
そのうち男が7人。女が1人。
どんな逆ハーだよ、とか思ったけど、どうやらそういうわけでもないらしい。


主従関係、とでも言うのだろうか。
その、たった一人の女の人―――いや年からすると女の子、だろう。名前は柳川如月というらしい―――に、例外なく皆従っている。これはどんな感情なのだろうか、頭のあまり良くない桜には分からなかったが、もしもたくさんの語彙を持っている人間ならば、こう言うだろう。


心酔、と。





「あーあ、ホント今日は疲れたなぁ」
いつでも笑みを浮かべた少年―――名は棗由浮という。赤名くんと下の名前が同じなので少しびっくりしたが何も関係ないらしい―――は、その笑みを少し苦笑いに変える。

「テメーは特に何もしてねぇだろうが。たいして疲れる仕事でもなかっただろーがよ」
つーか今日ってまだ半分しか終わってねえよ。
由浮少年の向かって左隣に座っている、どうやらこの8人の中では如月ちゃんに次ぐリーダー格であるらしい、少年か青年か微妙な彼―――阿茨睦月というらしい。『如月』と何か関係あるのかと思ったが、聞くタイミングを逃した―――が答えた。
かなり乱暴な言いようだが、それでもその中に本当に嫌悪の意は込められていないのは桜でも分かる。



と。
いつも通りのそんな会話をして、騒がしくも楽しく食事をしていた彼らのもとに、一本の電話が入った。
ちなみに今は昼ごはんの最中であり、時間は12時30分を過ぎたところである。
誰もが昼ごはんを食べたり、準備したりなど忙しい時間帯である、基本的に電話をかけるのは非常識だ。
しかもその着信音は、桜の左隣に座っていたグレイのポケットに入っていた携帯から鳴った。


グレイはおもむろに、と言うか明らかにめんどくさそうにそれを取り出す。
しかし画面を開き呼び出している人間の名前を見るや否や顔色を変え、椅子から立ち上がり通話ボタンを押す。

「もっ…もしもし」
隣の部屋に移動したためその先は聞こえなかったが、5分して戻ってきたグレイの顔は憔悴しきっていた。


「なんだったの?グレイ」
みんなの疑問を代わりにぶつける秋。
その問いにグレイは、目をつむって首をゆるりと横に振るだけだった。

しかし秋は空気を読まず食い下がる。
するとグレイは秋を指差した後、自身の形態を指差した。
どうやら秋に自分の携帯を確認しろ、ということらしい。
秋は訝しげに自分の携帯を取り出したが、スライド式のそれの画面を見るや否や、グレイと全く同じように顔色を変えた。


「やば…」
顔を真っ青にして、うっすらと冷や汗をかいて呟く。
しかしそんな彼らを見ても、残りの6人は何事もなかったかのように食事を続けるのだった。
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