踏み出す世界は


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「…はぁ、まるで嵐だったなぁ…」

ぐちゃぐちゃになってしまった自分の部屋を見て、俺はため息をついた。
そんな俺の足元には、小さな緑色のポケモン、ツタージャがいる。彼(?)は俺を見上げては部屋を見渡して、少ししょんぼりしたように顔を伏せた。…表情豊かだなぁ。
屈んでツタージャに視線を合わせてやって、その頭を軽く撫でてやる。

「怒ってないよ」

そう言ってやれば、ツタージャの表情が途端に明るくなった。その場でぴょんぴょんと跳ねたかと思ったら、俺の肩に飛び乗ってきた。小さいのに意外と重いなぁ。
すりすりと頬ずりしてくる姿をもう一度撫でてやって、改めて部屋を見る。これだけぐちゃぐちゃなのにウィーが無事だったのはありがたい。パソコンも無事だし。

「うまく手加減してくれたのか?ありがとな」

どうしてこうなったのかと言うと、まぁ簡潔に説明するなら室内でバトルをしたからだ。
今日、俺とベルとチェレンの幼馴染トリオは、この街に住むポケモン研究者のアララギ博士からポケモンをもらった。俺はこのツタージャ、ベルはミジュマルでチェレンはポカブ。
三人ともポケモンを持つのは初めてで、興奮していたのだ。バトルしてみようとベルが言い出して、チェレンが止めたのにも関わらず俺とベル…そしてツタージャとミジュマルでバトルになった。そのあとは俺とチェレンでバトルして、最後はベルとチェレンで。楽しくて楽しくて、最終的にはチェレンまでノリノリで指示を出していた。
結果が、この部屋の惨状だ。
こんな小さなポケモンにこんなパワーがあるなんて知らなかった。
俺は気にしなくてもいいと言ったのだが、ふたりは片付けを手伝うと言って聞かなかった。
だから、片付ける前にアララギ博士のところにお礼をしに行こう、と提案した。二人ともその案には乗ってくれて、後で研究所の前で集合しようということで一旦解散した。
…幼馴染にだって見られたくないものぐらい、俺にもあるんだよ。
幸い、ふたりは気付いてなかったみたいだし。
机の下から僅かに覗く、小さなダンボール箱。それは俺たちより1年前にポケモンをゲットしてこの街を出て行った姉から送られてきた、俺の宝物。

「…さて、ツタージャ。出かけるまで時間あるし、手早く片付けようか」

一階から雑巾とバケツをもらって来て、と言えば元気よく返事をしたツタージャは俺の肩から飛び降りて、階段を駆け下りていく。バトルの時も思ったけど、素早いんだなぁ。

「さて、どこから手をつけようか…」

足跡だらけの壁や床を見渡して、まずは家具やカーペットを移動させるべきかと思案する。年末の大掃除依頼だなぁ。
腕まくりをして、さっそく掃除に取り掛かる。
……ママから雑巾とバケツを受け取ったツタージャが階段を登れなくて、一階でぴょんぴょんしてたのが可愛かったなぁなんて思ったのは、ちょっぴり秘密。

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