踏み出す世界は


□ここは地の底
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手にした懐中時計で時間を確認し、腰の後ろのボールをチェック。右に3個、左に3個。よしOK。
帽子の鍔をぐっと引いて、きちんと被り直す。コートの襟や裾をくるりとその場で一回転して変な部分がないか確かめる。今日もクリーニングしたての綺麗なコート。
ネクタイを閉め直して、規則正しく揺れる車内を見渡す。
ゆっくりと、扉が開いた。入ってきたのは一人のトレーナー。
その人がある程度の距離を取って目の前に立ったのを見計らい、私は「お仕事」の前口上を口にする。

「ようこそいらっしゃいました。ご存じの通り、ここはバトルサブウェイのシングルトレイン、20戦目に御座います」

大げさに手を振り上げて、目の前の挑戦者を優雅な所作で指差す。
相手は始めてみる顔だ。だが緊張感のある顔をしている。……中々楽しめそうだ。

「さて、わたくしの後ろの扉には、サブウェイマスターが控えております。あなた様が彼の方に挑むに相応しい実力と心をお持ちか否か…わたくしが、ここで見極めさせていただきます」

黒のコートの裾を翻して、左側にセットしておいたボールをひとつ握りしめる。
手首のスナップだけで放り投げ、相棒を出す。紫の炎が、煌めき揺らぐ。

「申し遅れました、わたくしはサブウェイマスターのノボリ様の補佐をしております、エメラルドと申します」

轟、と熱が車内を満たす。
巻き上がる風にコートと髪が暴れるなか、私は一礼した。

【此処は地の底】

「どうぞ、よしなに」

さぁ、楽しませてくださいな。

*
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