剣は誰が為に

□ShortStory
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日の差しこまぬ、深い森。
その中で銀色の軌跡が閃き、澄んだ高い音が響く。発生源で、黒い髪の少年が舞うように動いていた。
蒼や翠で意匠された白いロングコート、二の腕までを覆う白い布製のアームガードを身に纏い、左腕には巨大な盾、右手には銀色の剣を握っている。普通なら耳がある場所は、機械のような金属になっていてそこからコードのように細いものが伸びていた。彼が動くたび、それが揺れる。
ここ、ラクシアでは珍しくもない。彼はルーンフォークと呼ばれる人族だった。人間によって創り出された、人工生命体。
その戦士である少年―トラン・シルヴァニアは目の前の敵を睨みつけて武器を振るう。
2mほどの大きさの、竜にも似た爬虫類。通称ケラトス。額に生える2本の長く鋭い角は、完全にトランに狙いを定めている。

「…こんぐらいの敵なら、俺一人でも十二分ってとこだな…さぁ、いくぞ!!」

声を張り上げ、トランは敵の懐に飛び込んだ。が―。
目の前に迫る、ケラトスの二本の角を見て慌てて軌道を変えて回避する。左腕に装備した盾で弾きつつ、自分は右手を地面について側転。すぐさま力強く地面を蹴り、突進してきて隙だらけのケラトスの首筋に刃を振り下ろす。

「はぁあっ!」

銀の刃が、鱗を切り裂いて肉を抉った。鮮血が、周囲の草木に赤い斑模様を描く。

「チッ、一撃で沈めるには浅かったか」

ケラトスは空に向かって苦しみの雄たけびを上げている。
それを見て、トランは不敵に笑う。

「次で沈めてやるよ…楽にしてやる、さあ来い!」

自身に傷を負わせたトランに向かい、ケラトスは再び角による突進をかます。トランはそれを真正面から受け止めた。だが、

「っぐ、ぅ!?」

一本の角が、盾で受け止められたため浅くではあったが、トランの左肩に突き刺さった。ジワリ、と白いコートに赤い染みが滲む。
痛みに顔を顰めつつも、トランは両腕を大きくふるった。盾に弾かれケラトスは大きく揺らぐ。隙だらけのそこに、トランは刃を突き刺した。
銀色の刃を、鮮血が伝う。
刃を引き抜けば、2mの巨体がズゥゥンという地響きとともに倒れた。放置しておけば、森の狼たちが食料とするだろう。
血に濡れた刃を拭い、腰の鞘に納める。
物言わぬ屍となった敵対者に無言の祈りを捧げ、トランは背を向けて歩き出した。
実を言うとこの森は、トラン達が滞在している街からほど遠くない位置にある。その森で巨大な竜のような化け物が暴れているとの情報が入ったので、トランは一人で討伐しに来たのだった。
左腕を動かそうとすれば、鈍い痛みが走った。街までは徒歩で10分弱と言ったところ。街に帰ってから治療した方が安全だろう。森を二分するように伸びる街道をそんなことを考えながら歩いていると、その道の先に人が立っているのが見えた。
赤紫色の髪に、額に生えた2本の小さな角。手には大ぶりの刀。その姿に、トランは嫌というほど見覚えがあった。

「ヨルヤ…?」
「おつかれ、シル。一人で行ったって聞いたから迎えに来たぞ」
「必要ないだろ、この距離で迎えなんて」

仲間であり、いくつもの死線をともに潜り抜けてきた相棒であるヨルヤの姿に、トランは無意識に口元を緩める。
ヨルヤはというと、軽く血が滲んでいるトランのコートを見て眉間に皺を寄せていた。
その視線に気づき、トランは左肩を抑える。

「一撃喰らった。大丈夫、かすり傷だ」
「いや、どうみてもかすった跡じゃないからな」
「言葉のあやだ。かすった程度の傷ってことだよ」
「たっく、お前パーティーの誰よりも丈夫だからな…」
「褒め言葉と受け取っておく。それよりヨルヤ」

腰の剣に手を掛け、トランとヨルヤは背中合わせに立つ。ヨルヤも刀を両手で握る。

「無駄話してたから囲まれただろうが、筋肉馬鹿」
「シルが怪我の治療してなかったから、血の匂いに惹かれてきたんじゃねぇのか?」

お互いに罵りあう二人の周囲を、数十体の狼が取り囲んでいた。目は完全に、獲物を見るそれだ。

「なあ、ヨルヤ。勝負しないか」
「どっちが多く倒せるかって?負けたら?」
「ちょうど切れてるポーション20本自腹で買ってこい!」
「のったぁ!!」



負けず嫌い、上等!
 (認めているからこそ、負けたくない!)



(俺が18体、お前が13体、と…よし、街に着いたらポーション買いに行くか)
(ちくしょーっ!またシルに負けたぁーっ!!)
(…いい加減、そのあだ名やめろ)

FIN
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