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□炭酸水の中で消滅
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「昨日どこ行ってたのかしら」

「香ちゃ、」



やばいと思ったときにはもう床しか見えなかった。

ったく、怒るんなら話聞いてからにしてくれよ。



「何の連絡もなしでほっつき歩いて!携帯持ってるのに!そんなの不携帯電話じゃない!このもっこり野郎!」

「もっこりは男の本能だから仕方ないだろ、ほら」

「じ、女子に見せないでよ!」

「女子だあ?シュガーボーイの間違いだろ」



ぎゃあぎゃあ喚きちらしてる香がつくってくれた朝飯を食いにリビングへ行った。

呑みに行っても言えない仕事があっても、何だかんだ毎朝つくってくれる。

(…かわいいっていうか純粋っていうか)



「ほんとに今日は許さないからね」

「日常茶飯事だろ、にちじょーさはんじ。香ちゃんに怒られてもボキこわくないもん」




「あんたは分かってないのよ、ばーか」




泣かせていた。

待て、俺はなにをしたんだ。

誕生日はもう終わったぞ。

記念日らしい記念日なんか俺らにはない。




(あ、わかった)

気付いたときにはもう香の自動車はなかった。

くそ、あのばか。

慌ててキーを握り部屋を飛び出した。












「香、こっち向いて」

「真面目な声出しても意味ないんだからね」

「こっち向け」

「……ん」



史上最強に不機嫌な顔で俺を見る。



「デートしようか」

「…あんた、あたしまで口説くようになったの?」

「久しぶりに真面目になったのに。リョウちゃん泣いちゃう」



いつものようにおどけてみせれば笑ってくれた。

それがくすぐったくて、香から目を逸らした。



「とりあえず駅行きましょ」

「へいへい、仰せの通りに」



そう言うと、急に笑顔になって早足で歩き出した。




不意に繋がれた右手が熱かったとか、短いくせっ毛から見える耳が赤かったとか。

今日は全部俺の負けだ。







 

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