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□そして人魚は泡沫の夢を見る
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冴羽商事は万年暇なわけで、今日もこうして昼寝しかけているんだけれども、この感じは嫌いじゃない。
うつらうつらとして、泡が弾ける、この感じ。
今日もリョウは遊び歩いている。そういう時、私はリョウの部屋で昼寝する。リョウの部屋は心地よいのだ。私の部屋と別段変わらない(ただ煙草臭い)のに、安心する。この部屋は、リョウの存在が痛いほど伝わる。
闇とか裏とか、今だによく分からないけれども、そんな世界にリョウは存在して、でも私にはそんな世界を見せないようにする。
リョウは本当に優しいと思う。私に甘いとも思う。本人に言ったら照れ隠しで「何言ってんだかね」とか言いそう。
そろそろ起きて夕食の買い出しに行かなくちゃいけない。でも、あと少しだけ、いつも意地を張っている分だけ、リョウを感じたい。波のように揺れる視界に耐えながら、私は携帯電話のアラームをセットした。そして眠りに就いた、午後3時半すぎ。
「ん…」
「お目覚めかい?香くん」
「え、ちょっと、な、何で」
「おまぁ、それは俺の台詞だろ」
はあ、と露骨な溜息をつかれてから気付いた。私、リョウの部屋で寝ちゃってたんだ。
「そんなに俺が恋しかった?」
「バカなこと言うなっての!ハンマー出すわよ!それともこんぺいとうがいいかしら!」
ふにゃりとだらしなく笑うリョウに向かって一気にまくし立てて部屋を出た。
(まさか、恋しかったなんて、あいつったら、冗談きついわ!)
(耳まで真っ赤にしちゃって、かわいいな、香ちゃん)