薄桜鬼〜桜狐録〜*
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どこからともなく桜の花吹雪がまきおこり、彼女の身体はみるみるうちに花弁に
包まれていった。僕が鞘に手をかけた時、
「梓様 おやめください」
『ーーーつ・・椿ッ!?・・・うっ』
吹雪は何もなかったかのように消え、少女を担いだ人影が見え・・・
「総司っ!何の騒ぎだ!」
騒ぎを聞きつけた幹部隊士が次々と集まってきた。
「そこの女。動くな」
少女を担いでいる女は何も言わずこちらを見ている。
「話を聞かせてもらおうか」
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「私は、この方の側近の椿と申します。」
女は特に抵抗もせず話始めた。
「側近?」
「どっ・・・どういう身分なんだ!?」
「新八!耳元で叫ぶな!!」
「おまえら!!静かにしろ!!!!」
「・・・・・・・・・」
「あの御方はとある高貴な家の姫様にございます。」
「証拠は?」
「これを」
女は一通の文(ふみ)と小刀を出した。
「・・・・これは・・・」
小刀には三つ葵の紋が彫られてある。
文の宛名には(桜神梓)と記されている。
「それは徳川家からの贈り物でございます」
「・・・これが本物だという証拠は?」
「姫様のことは貴殿方にお任せします。くれぐれも幕府の意思に背くような真似
をしないよう、お気をつけください」
それだけ言うと、薄く微笑んでから立ち上がると真っ直ぐふすまへと向かおうと
する女の肩を掴むと
「待て!まだ話は終わっちゃいねぇ」
にっこりと微笑んだかと思うと、スッと消えた。
「っ!?」
「なっなんだ!?」
「あの女、神通力を使ったのか!?」
「どうするんですか、土方さん。逃げられちゃいましたよ?」
僕は女が消えた場所に落ちていた一輪の椿を拾い、土方さんを見た。土方さんは
眉間にシワを寄せ平助の方を見ていた。
僕肘で平助の腹を小突いて「何だよ」とでも言いそうな顔をしていたから土方さ
んを見てからため息をついた。
僕の意図に気づいたのか平助達は土方さんの方を向き、座り直した。
その時、大きな歯車が音をたて軋んだことを僕は知るはずもなかった。
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誰かに肩を揺すられて目を覚ますと目の前には心配そうにこちらを見つめる少女
の顔があった。
『千鶴・・・ちゃん・・・・?』
「良かった・・・・大丈夫?」
その後、千鶴ちゃんは父親を探すために屯所で過ごすことになり、私はたいした
理由も聞かされる事なく、千鶴ちゃんと共に居座ることとなった。
側近が下した判断にも疑問を抱くことも無い。逃げる事なんてその気になればい
つでもできる。
でも、私は_________。
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*千鶴side*
あの雪の夜の日から一月くらいたった頃。
「梓ちゃん!私、洗濯手伝うよ」
『あ、うん。ありがとう』
屯所の生活にも大分慣れてきていた。
「あの・・・梓ちゃん・・・」
私はある事がずっと気になっていた。
『何?』
「あ!ーーーご、ごめん!やっぱり何でもない・・・」
梓ちゃんが笑っているのを一度も見たことが無い。
どうしよう・・・私に出来ることは何かないかな・・・
私はそんな願いが《あんな事件》で叶うなんて想っていなかった。この時、もう
すでに小さな足音が屯所に忍び寄ってきているなんてーーーーー。