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□恋心はそのままに
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ずっと君が好きだった。
ずっと、君を見ていた。

だからね、気づくんだ。
君のほんの少しの変化にでさえも。君の頬が、手塚を見るたびに染まるのも。





結衣と出会ったのはまだ小学生のときで、僕の家のお隣さんとして君が現れた。君は柔らかな雰囲気で、とても可愛らしい笑顔で。

よろしくね、とただ言ったんだ。


今から考えると、きっと僕はこのときすでに君に惹かれていたんだろうと思う。世間一般で言う一目惚れというものだった。
同い年ということもあって、幼馴染みという間柄になった僕等は一緒に時間を共有するようになった。



それから初恋しか知らないまま時を過ごし、今僕達は中学生になった。



「周助!」

「結衣」

「迎えにきたよ、部活いこ?」




あのときと変わらない、柔らかな笑顔で微笑む君。

こうやって毎日違うクラスなのに迎えにきてくれると、幼馴染みというのはつくづく得をするポジションだと思う。
まぁそれは結衣がテニス部のマネージャーだからというのもあるんだけれど。


「ほら、周助!早くいかないと」

「クス…急ぎすぎだよ」

「周助が遅かったのにー!」



たわいもない話をしているとテニスコートに着く。君といる時間はなんて早く過ぎてゆくのだろう。一人でここへ向かうときはやたらと長く感じるのに。



「じゃあ私、ドリンク作らないとだから先行くね!」

「うん、頑張って」

「っ、あ」



ぱっ、とマネ室へ向かう結衣の足が止まる。

その視線の先には。




「…手塚」

「…結衣、今日のメニューを確認したいのだが」

「あ…うん、大丈夫だよ」


昨日までは、倉橋と呼んでいたのに。

ねぇ結衣、気づいているかい?
手塚と話しているときの君は、とても幸せそうな顔をしてるんだ。




部活を終え、家路へつく。
家が隣同士の僕と結衣は
、マネージャー業務が終わるのを待ってから一緒に帰る。入部して最初の頃と変わらない習慣。


「今日桃城くん達頑張ってたねー」

「あぁ…きっと越前のおかげでいい刺激になっているんだろうね」



いつも通りに話している結衣。
僕の前では、いや。たった一人の前以外ではいつも通りなのか。
たった、一人。

「…ねぇ、結衣」

「ん?」

「好きな人、できた?」



僕の言葉に歩くのを止め「え?」と驚いている君。


ほら、また。
君の表情が僕の知らないものになるんだ。


「…やっぱり、周助にはわかっちゃうか」


ふんわり頬が染まる。

ああ、できることなら。
気づきたくなかった。

誰かに恋してる君なんて、
嘘でも見たくなかったんだ。




「それってもしかして手塚?」

「えっ!?」



真っ赤な顔で慌てて否定する結衣は完全に肯定しているようなもので。

何も言わずにいると、

「…実は、付き合ってるの」

と、照れた顔で笑った。



薄々理解してはいた気がしたけど、現実に君の口から聞くと頭を何か重たいもので殴られたようになる。

結衣が思っているのは自分じゃなく手塚なんだと思うと、醜い嫉妬心が僕の内を満たしていく。


「僕じゃなくて手塚かぁ…」

「だって周助は幼馴染みじゃん!」



…こんなところで、幼馴染みという関係が邪魔をするだなんて。


「あ、その、付き合ってるのは内緒だからね!」


そう照れくさそうに笑う結衣。





あの時からこんなにも大好きだった君の笑顔が、僕が知らない君の表情が、これからは僕じゃない誰かのものになる。


でも、


「…結衣」


ずっと


「なに?」



…僕は、君が一番大切な人なんだろう。
ずっと、君に初めての恋心を抱いたままなんだろう。

だから


「幸せになって」



君の幸せを、一番に願いたいんだ。





(たとえ幸せにするのが僕じゃないとしても。)
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