gift

□お見舞い
1ページ/4ページ

『我愛羅君はまだ、知らなくていいよ』

あの出来事があった日、気がつくと俺は保健室のベッドの上にいた。
辺りはすっかり日が暮れて、西日が窓から差し込んでいる。
教室は放課後は鍵が掛けられるので、既に荷物が纏められ、リュックサックがベッドの隣に置かれていた。きっとクラスメイトが片付けてくれたのだろう。
俺は辺りにカカシがいないか探した。が、ここに居るのは俺と書類を書いている保健医くらいで、保健室はしんと静まり返っていた。

俺はその保健医に一言告げることもなく、逃げるようにして家路を急いだ。
意識がはっきりしてくる程あの生々しい出来事が鮮明に頭に浮かび上がる。
カカシの声、手の感触、舌の感触でさえ無駄に記憶力の良い脳味噌は記憶していたのだった。








舞い









翌日、俺は学校を休んだ。生まれて初めての仮病だった。仮病という手段を使うことに罪悪感が無かった訳ではないが、わざわざ自分から罠に嵌まるような真似は避けたかった。
いつもの日程通り行けば、昨日と変わらず現代文学の時間はやって来る。結局教科書は返してもらえず、また昨日の事のようになるかもしれない。少なくとも、目を付けられたのは明らかだ。
テマリもカンクロウも学校へ行き、俺は人の気配がしないリビングへと降りた。出された課題はもう済ましてしまったし、これと言ってやることもない。学校が無いというのはこうも暇なものなのか、と徐にテレビを付け、昼間のニュース番組を見ていた。
暫くぼんやりと画面を見ていると、玄関のチャイムが鳴った。
もしかしたら訪問販売とか宗教だとかの勧誘かもしれない。放っておこうかとも思ったが、大切な荷物が届いた可能性もあるので、インターホンの画面を覗いてみた。

「…な、んで…」

俺は我が目を疑った。画面に映っていたのはセールスマンでも勧誘者でもなく、今学校で授業をしているはずのはたけカカシだったのだ。
全くもって驚いたがドアが開かないなら居留守を使うまでだ。
俺はテレビを消して素知らぬ素振りをした。が、カカシはその後も何度もチャイムを押している。無機質な呼び鈴が何度も家の中を駆け巡る。
いい加減にうるさい。
俺は仕方なく折れてインターホンに出た。

「…何の用だ」


「あ、我愛羅君?このチャイムもしかして壊れてる?何回押しても出てくれないんだもん。留守かと思ったよ。」

俺が家に居るという確信がなければあそこまでしつこくチャイムを押すはずが無いというのに、カカシはぬけぬけと言った。

「ところで、どうしたの今日は。我愛羅君が休みなんて珍しいじゃない」

飄々としたいつものカカシの声。昨日の出来事がなければ、恐らくすんなり家に招き入れただろう。
それにしても何故無理矢理に犯した相手に向かって「どうしたの」、などと平気で聞けるのだろうか。俺はカカシの神経を疑った。

「…少し、体の調子が悪くて…」

「あらら、大丈夫?無理はしちゃあ駄目だよ、無理は。正直に言わないと。…それとも…」

昨日のアレの所為?

カカシにひそりと耳元で囁くように言
われ俺は危機感を覚えたのと同時にぞわ、と全身に鳥肌が立った。

「…誰の所為だと思って…」

「そうそう、我愛羅君から預かってる教科書、ね。今日返そうと思ってるんだけど…ここ、開けてくれない?」

「…教科書はポストに入れて帰れ。」

「ええー。せっかくお見舞いに来たのにそりゃあ無いでしょ。」

教科書は一刻も早く取り返さなければならない。が、カカシを中に入れる訳にはいかない。

「いいからポストに教科書を入れろ。家には入れないからな。」

「あらら、そんなこと言っちゃっていいの?俺がこれ返さなかったら我愛羅君学校来れないんじゃないの?」

カメラに向かってカカシはヒラヒラと現代文学の教科書を振って見せた。決して軽くはない厚みの本が軽々と空を切る。

「…最低だな…」

俺は仕方なく家のドアを開けた。そこにはひょろりと長身の男がこちらに笑顔を向け、立っていた。

「お邪魔しまあす。」


次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ