極短編

□銀時君と愉快な仲間達10
1ページ/1ページ




「せんせぇ」

「おや、どうしました銀時」

亥六つ時、松陽の部屋の障子の隙間から、銀時が顔を覗かせた。
松陽は多少驚いたものの、ふわりと笑って筆を置き銀時を手招いた。

銀時はおずおずと部屋に入り、松陽の前に立った。
普段なら抱きついてくる筈なのだが、と松陽は銀時を見上げて首を傾げた。

「怖い夢でも見ましたか?」

「…ごめんなさい…」

申し訳なさげに頭を垂れる銀時の細い腕を引き、松陽は銀時を抱き締めた。
ビクリと肩を揺らす銀時の頭を極力優しく撫でる。

「…どんな夢を見たんですか?」

「……ぇ…?」

「怖い夢は人に話すと良いと言われています。話してみなさい」

「…………おにって…いわれるゆめ…」

鬼という単語を聞いた瞬間、松陽が僅かに眉間に皺を寄せた。
だが銀時の頭を撫でる手は止めず、それで?と続きを促す。

「…おに…いなくなればいいのにって…」

「………そう」

「おれ、いなければよかった…?」

「馬鹿をおっしゃい。いなければいい命なんてありません」
 
ピシャリと言い放てば、銀時は少し体を離して、顔色を窺うように松陽を見上げる。
松陽は眉間に皺を寄せたまま、銀時を真っ直ぐ見つめた。

「でも…みんな、いなくなれって…」

「貴方は居なくなりたいんですか?」

「……………」

首を横に振る銀時を松陽が再び優しく抱き締めた。
銀時も遠慮がちに松陽の着物の裾を力なく掴む。

「銀時、貴方が居なくなったら私は寂しくて死んじゃいます」

「………ぇ?」

「貴方には此処に居てもらわないと私も晋助達も寂しくなります」

「…晋兄も?」

「小太郎も辰馬もですよ。みんな、貴方が居ないと寂しいんです」


銀時が鬼と呼ばれ誰からも望まれない子供だった事は松陽も知っていた。
だからこそ、松陽は教えたかったのだ。

銀時を必要としている人間は、ちゃんと存在するのだと。

「…おれ、ひつよう?」

「当たり前でしょう」

「………よかった」

ほわっと安堵の表情を浮かべる銀時とは反対に、松陽は複雑な心境だった。

安心したからか、銀時は松陽の腕の中で寝入ってしまった。
松陽は寝てしまった銀時の体を、優しく布団に寝かせ顔に掛かった銀色の髪を鋤く。
 
「…ゆっくり寝なさい、銀時」

鬼と呼ばれる事。

きっと鬼と呼ばれた事のない自分には分からない痛みがあるのだろう。
迫害されて嫌われて、その中でも懸命に行き続けた銀時は、きっと自分よりも遥かに強い。

生きたいと、生きると望む事は孤独と絶望の中で生きた銀時にとってどれだけ困難な事か、察しきれない。

「…私が護ってあげるから…」







護るよ。

貴方は大切な大切な私の息子だから。




























 
「先生、今回はふざけてなかったな」

「あはははっ!」

「いきなり笑うなタワシ!」

「晋助は乱暴じゃのぅ…」


―END―
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ