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□鰐憑依
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頭にガツッと物凄い衝撃が走った、事までは覚えている。

野球観戦の途中だった。応援しているチームの攻撃、劣勢の中の9回裏、ノーアウト満塁。こんな出来たシチュエーションに、もちろん打者は実力・実績共にある期待の4番。
そして。

頭にガツッと物凄い衝撃が走った、事までは覚えている。

起死回生のホームランボールが頭に当たるなんて。今年の私はついてるに違いない。
意識は眩む頭でそう思った所で閉じた。







さて。


“どこだここ”


声に出してみるが、それは音にはならなかった。同時に、身体が僅かに硬直する。私の意思では、ない。それどころか、体の自由は一切利かなかった。指先一つ、瞬き一つ叶わない。
ところで、視線が異常に高い。確かに私は女にしては背の高い方だっただろうが、しかしこれは…………高過ぎる。バイト先の先輩に2m越えてる、なんてからかわれた事があるが、これはそれを優に越えているんじゃないだろうか。

相変わらず体は私の意思と関係なく動く。見知らぬ廊下を迷わず進む。私の体は一体どうしてしまったというのだろう。
急に伸びた身長、言うことをきかない四肢。頭を打っておかしくなったんだろうか。どうしたって動かない体を早々に諦め黙々と考える私を他所に、私の体は豪華な造りの扉を開いた。そうして進んだ先で、視界に移ったのは、ちょこんと額にバナナを乗せ、大きな図体で悠々と水中を泳ぐ、ワニ。


“……ば、バナナワニ…………?”


こんなとんでも生物、私は知らない。何故ならあれはフィクションの世界で生きる物であり、私の生きる世界ではワニの頭にバナナは生えていないし、あんなにワニは大きく育たない。混乱しすぎて支離滅裂だ。つまり何が言いたいって、存在しないはずなのだ、「バナナワニ」なんて生物は。だから、知らない。


「てめェ……何者だ」


そうして突如頭に直接響く声。ドスの利いた重低音、と呼ぶに相応しい声。声の主は誰か。それはバナナワニを見た瞬間、何匹もいるバナナワニが一望できる水槽をバックにしたデスクが視界に移った瞬間。嫌でも意識する人物に他ならなかった。
私の身体が水槽に近付く。近付くに連れ、ガラスに写し出される“私”の身体。
2mを優に越える巨体、上等そうなファーのついたコート、オレンジのベスト、白のスカーフ、たゆとう紫煙、くわえられた葉巻、傷を縫合した痕、真一文字についている傷、垂れ目と表現するには生易しい人相の悪い目、眉間に刻まれた皺、後ろに丁寧に撫で付けた艶やかな黒髪……どれだけ挙げても、不一致点は見当たらない。
ああ、間違いない。嗚呼、間違いない。


“……なんてこった”


そう、声は“私”が発していたのだ。自分の声だから頭に響いた。いや、体感してみると実際は胸辺りが響いていた気もする。重低音パネェ。


「クハハ、今更後悔か?どんな能力か知らねェが、おれを乗っ取ろうたぁ馬鹿な事を考えたな」


………………生「クハハ」頂きました。

ああそうさ、私は、“私”は。
“この人”は。














王下七武海、サー・クロコダイル。




居候始めました。
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