ぼーいず

□やさしい手
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「エース、」


風呂上がりに廊下を歩いていれば後ろからよく聞き慣れた声がして。振り返ればマルコが手招きしていたから俺は素直に寄っていった。

「髪」
「んぁ?」


肩にかけていたタオルで乱暴に頭を拭かれる。なんだか痛いわくすぐったいわびっくりしたわで「わっ」と小さく声を上げて離れてしまった。


「何だよ急に」
「ガキじゃねぇんだからしっかり拭けよい。あと上も着ろ。湯冷めすんぞ」


そう言って俺の頭を撫でてから隣をすり抜けていく母親のようなマルコに出来たらする!と返して、触られた頭を自分の手で触れてみた。
なんだか、へん。


部屋に戻ってベッドに転がれば、うとうと、うとうと。そういえば前もあんな感じだった。
ああして頭を拭かれる時も、飯時口元を拭われる時も、撫でられる時も。
へんなかんじ。でも全く嫌じゃない。そんなことはない。むしろ、


「結局着てねぇ」


いつの間にか部屋の扉が開いていて、そこには今考えていた人物がいたもんだから。俺はびっくりした上になんだか気恥ずかしかった。
ベッドから起き上がって慌てて恥ずかしさからちょっとうつむくと頬を固い指がなぞった。


「どうした」
「いや……」


固くて冷たい手。ひやりとしていて気持ち良い。


「俺さ、好きなんだなぁ」
「あ?」
「あんたの手」


へんな気持ちの正体に、俺はに、と笑った。うん、好きだ。戯れに指を絡めて、また笑う。
するとマルコはちょっとだけ眠そうな目を見開いて、照れたように目をそらした。


「手、だけかよい」
「え?」
「……ま、いいか」


マルコが笑ってまた俺の頭を撫でたから、嬉しくて俺も笑って、マルコ、と小さく名を呼んだ。




やさしい


(まだ、)


(まだ、手だけなのか)


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