ぼーいず

□さよならよりも
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彼は自由に身を浸し生きてきた。海を自由に駆け回り、そうしてたまに私の元に来て笑顔で言うのだ。眩しい笑顔で。


「ルージュ、俺は海を愛してる!けれどそれ以上に、お前を愛してる!」


海のかおりのする馬鹿なくらい真っ直ぐなその人を、私も愛した。
自由な、彼を。


久しぶりの再会に彼はいきなり私を抱き締めた。私の大好きな海のかおりがした。
けれど、彼はいつもみたいにくしゃくしゃの笑顔で笑ってくれなかった。


「ルージュ、」
「どうしたの」
「俺は、もう、」






―長くないらしい。


「だから、俺はお前を置いていかなきゃならん。俺はまだひとつだけ、やることがある。」


彼は絞りだすような声でそう言った。私を抱き締めたまま。顔を上げないまま。
私は悲しいとか、辛いとか、そんなことよりも。ずるいでしょう、って思った。ずるい、ずるいでしょう。
あなたが思っていることを、私の顔も目も見ないで、逃げるみたいに言うのはずるいでしょう。


「ロジャー、離して」
「ルージュ」


私よりも彼の方が、顔をくしゃりと歪めて泣きそうな顔をしているものだから、私は彼の両手を握った。固い手だった。あたたかな手だった。


「話して」
「……」
「お願い」
「…海賊の時代は、続く。"D"の意思もだ。俺はそれを確実に死ぬ前に世に知らしめなきゃならねぇ。それは、俺の……処刑、という形でだ。」


死、処刑、彼が。私の頭の中を絶対的な真実が蝕んでいく。
それでも、私は泣かない。無様に泣いたりなんかしない。彼を引き止めるような真似はしない。
だって、だって。


「それが、あなたの意志なのね。ロジャー」


――あたしが愛した、彼の意志。

「愛してる、愛してるんだ、ルージュ」
「…わたしもよ、ロジャー」


泣いて私を抱く彼に、

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