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□取捨選択
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「ん〜っ、美味しい! やっぱ乙女には甘い物が必要不可欠だよね♪」

「すずちゃん、その白いものは何かしら?」

「白玉というものです。お食べになりますか?」

「まあ、いいの? じゃあお返しに私のケーキも食べてみてね」

「ありがとうございます」

「あ、お兄さ〜ん! ここ、ストロベリーパフェ追加ね!」

いかにも若い女性が好みそうな可愛らしいインテリアのそのカフェで、クラースは周りから感じる様々な視線にただ耐えていた。

店内は女性同士の客が7割、カップルで来ている客が3割といったところだろうか。

絶対数は少ないものの決して男性客が少ないわけでもないその中で何故クラース一人が目立っているかといえば、全身に描いた紋様と身体中に結わえた鳴子という彼の奇抜な格好は勿論のこと、一緒にいる相手も要因の一つとなっていた。

辺りに響くようなよく通る可愛らしい声できゃらきゃらと笑う、ピンク色の髪を高く結んだ見るからに快活そうな少女。

白い法衣に美しい金髪がよく映える、慈愛に満ちた穏やかな微笑みがまるで聖母のような雰囲気を醸し出している少女。

あまり見かけない変わったデザインの服を身に纏い、言動や雰囲気は下手な大人より余程しっかりしているものの、やはりまだまだあどけなさの抜けない愛らしい顔立ちの少女。

タイプの全く異なる三人の美少女を連れる、彼女達と一回りかそれ以上離れていそうな極めて怪しい出で立ちの男。

注目を集めないはずがなかった。

「それにしてもさ、クラースがショッピングに誘ってくれるだなんて変な話だよねぇ」

「あの、もしかして、ミラルドさんへのプレゼントをお探しとか‥‥」

「どうして150年も先の時代に来てアイツに土産を買わなければならないんだ」

「そうでしょうか。クラースさんの時代にはまだ作られていない物もたくさんあるでしょうし、お土産という発案は悪くないと思います」

「あ、さっき寄ったお店に可愛い髪留めあったよね? あんな複雑な細工のなんてあたし達の時代ではあんまり見かけないし、あれとかいいんじゃない?」

はっとしたように口元に手を添えておずおずと尋ねるミントに、クラースが呆れたように息を吐く。

それにすずが冷静に意見を述べると、便乗したアーチェがフォークを銜えたまま身を乗り出した。

どうにもそちらの方向へ持っていきたそうな様子に、彼は女性とは皆こういうものなのだろうかとぼんやりと考えた。

「でも、本当にどうされたんですか? いつもはお部屋で本を読んでいらっしゃるか、お出掛けされる時もクレスさんやチェスターさんとご一緒なさるのに‥‥」

ミントの言葉の中に、今はあまり思い出したくない二人の名前を聞いてクラースの身体が一瞬硬直する。

勿論あの一連の騒ぎを知らない彼女には何の悪気もなければ責任もなく、ただ純粋に疑問に思ったことを口にしただけである。

そう自分に言い聞かせ、重ねて思い出してしまった二人の無駄に真剣な熱い眼差しを忘却の彼方へと追いやりながら、クラースは興味深そうに自分の返答を待っている少女達へと笑いかけた。

「いや、宿の部屋も男女で別れてしまうし、考えてみればお前さん達とはなかなかゆっくり話す機会もないと思ってな。たまにはこうして共に過ごしてみるのも悪くないと思ったんだ」

穏やかに告げられたクラースの言葉の半分は本音であるが、半分は建前である。 

クレスとチェスターの手を力ずくで振り払い何とか逃れたものの、クラースは今日一日をどう過ごすかで頭を悩ませた。

いつものように部屋で一人静かに読書などしていたら、それこそ恰好の餌食になってしまう。

とにかく一人でいることを危険と判断したクラースは、部屋でお喋りに花を咲かせていた女性陣を誘って街へ出たのだった。

それでも、たまには彼女達とゆっくり過ごしてみようと思う気持ちも確かに彼の中にあったのだ。

そして今改めて、今日彼女達とこうして出掛けてみて良かったと思う。

疲れを知らないかのようにあっちの店へこっちの店へと移動する女性陣についていくのは体力的になかなか辛いものがあったが、可愛らしい雑貨や服を手に取っては楽しそうにはしゃぐ彼女達の年相応なその姿は、日々の戦いや世界を背負う使命感に削られた心を温かく癒してくれるようだった。

とは言ってもはしゃいでいたのはミントとアーチェであり、すずはただ二人に手を引かれるままに連れ回されているだけのような状態だったのだが。

それでも、とある店で二人に桃色の小さな花をあしらった髪飾りをつけられ似合うと絶賛された時にほんの微かに嬉しそうな色を見せた彼女が、クラースにはひどくいとおしく思えたのだった。

「クラースさん‥‥!」

「へぇ〜。偏屈なクラースにしては珍しくいいこと言うじゃん!」

「確かに、お互いを理解するためにある程度の時間を共有するというのは良い事だと思います」

感動したように両手を胸元で組み、きらきらと瞳を輝かせるミント。

チョコレートケーキの欠片が刺さったフォークをくるくるさせながら、からかうような響きで笑うアーチェ。

礼儀正しく両手を膝の上に乗せ、まっすぐにこちらを見つめて同意を示してくるすず。

三者三様の反応に知らず柔らかな笑みを浮かべながらカップに口をつけたクラースだったが、ふとその脳裏に再び今朝のクレスとチェスターの姿が浮かんだことで動きが止まる。

明日からどう接すればいいのか―――いやそれ以前に、自分は今日の夜を無事に過ごせるのか。

溜め息を吐いて流し込んだコーヒーは、何故だか妙に苦かった。










→後書き



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