時の歪み
□影人
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「アスカ!」
一番に顔を見せたのはジフだった。険しい顔をするので顔のシワが深くなっている。
「戻ってきたのか」
言葉から察するに、ジフは状況を理解しているようだ。アスカはすぐにわかったのと同時に驚きで目を大きくさせる。
「アスカちゃん、どこへ行ってたの!こんな時間まで遊んで!」
突然の怒号にアスカは肩をビクつかせた。ロゼがシオンを連れて階段を降り始める。
「ロゼ、それは…」
「奥様!申し訳ございません。私がお嬢様を連れ回した次第…罰は承知しております」
アルがジフの言葉を遮って言うと、ロゼは眉尻を釣り上げていた。
「何てことを…!」
勿論、その被害の目はアルを紹介した人物にも行く訳なのだが。ロゼが本気で切れると恐ろしいアスカはオロオロするだけだ。
「ロゼ、叱ってばかりではアスカが困るだろう。話も聞いてあげようじゃないか。アルだって…まだ幼い子供なのだ、同じ年頃の友達と遊べば、過ぎちゃう事も忘れてしまうのではないかな…?」
シオンが宥めるように説得する。ロゼは大きな溜め息をすると、平静を保ってくれたようだ。
「そうね、貴方の言う通りだったわ。アスカ、今日はもういいから明日は二人でキチンと説明して頂戴ね。アル君、今回は多めに見ますけど次があったら承知しませんよ。おわかりになって?」
「申し訳ありません」
アルが丁寧にお辞儀をすると、ロゼは納得したように部屋へと戻る。シオンは何故かニコッと笑いかけてからロゼと共に部屋へと戻った。
……悪いとわかってて叱られないのは、アスカにとって一番嫌な事だ。
ロゼは感情的になりやすいが、シオンは冷静にモノを見る。そして何が効率的なのかもわかっている。
結局、アスカが一番にダメージを食らう羽目になったのだ。
(二度と夜遊びはしないのだ…)
シオンが居ないのを良いことに夜遊びをした記憶が甦る。胸中でエライ人に誓った。
「アスカ、今日はもう遅い。色々あって疲れただろう、少し休むといい。明日また来る…」
詳しい話しは明日に持ち越しだ。アルと別れを告げると、アスカは振り向き様に残ったジフと目が合った。
「……懐かしいな」
「…え?」
「リシティアだ」
ジフの視線の先にはアスカのベルトにぶら下がった長剣のままのリシティアである。
「久しぶりに話しもしたい……用が済んだら後で私の部屋に来なさい」
クルリと踵を返すと、ジフは杖をつきながら自分の部屋へと戻る。