短編

□その男、ブラコンにつき。
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弟がブラコンになったのはいつ頃だったろうか。
小さい頃からいつもオレにまとわりついて来て、学校に行くのも食事を摂るのも風呂に入るのもベッドで寝るのも一緒だった。
はじめは何とも思わなかったが、流石に中学の時にマズイと気がつき、アルフォンスを兄離れさせるためにオレは親に無理を言って、実家から遠く離れたこの高校へ進学した。

しかし、それによりかえって弟のブラコン度は悪化してしまった。
最初は休日に遊びに来る程度だったものが、次第に泊まっていくようになり、果てにはオレと同じ高校に進学する、とまで言い出してしまった。
もちろんオレは全力で説得したが弟は全く聞かず、その上入試トップの成績で合格してしまった。

今ではなだれ込むように同じアパートで暮らしている。

そして、弟はより一層オレにベッタリな生活を送っている。



■□■□■


「兄さん、何考えてるの?」

夕食の後、ダイニングのテーブルに座りながらアルフォンスをどうやって兄離れさせるか思案していると、食器を洗い終わったアルフォンスが話かけてきた。

「…何でもいいだろ」
オレはそうはぐらかして答えた。というか、ありのままを言ったら何をされるかわからない。
僅かな動揺を隠すために、オレはお茶の入ったマグカップに手を伸ばした。

と、突然アルフォンスは後ろから抱きついてきた。
「!!」
オレの髪に顔をうずめてきた。
マグカップのお茶が少し飛び跳ねる。

「ふふふ〜、兄さんイイニオイ…」
幸せそうな声をあげるアルフォンス。あまりにも幸せそうだったので、止める事が出来ない。

「兄さん兄さん…むふふ」
オレが止めないのをいいことに、もっと腕に力を込めてくる。

「むう…兄さん気持ちいい…」

うっとりとした声をあげる弟を横目にオレは、やはりこのままではマズイと思った。
別に抱きついてくるのは今も昔も変わらないのだが、最近その頻度が増えてきたように思う。
もし弟が大人になってもブラコンだったらどうしよう。
そんな不安が頭の中にちらつく。
やはり、きちんと兄離れするように諭しておくべきだ。
そう思い、オレはアルフォンスを説得することにした。


「アル」
意を決してアルフォンスのほうに顔を向ける。
「お前さ、…」
だが、その先を続けることは出来なかった。

「どうしたの?兄さん」
急に言葉を止めたオレを不思議に思い、声をかけてくるアルフォンス。
「…いや、なんでもない」
オレは静かにそう答えて、再びマグカップに向き直った。





アルフォンスのほうに顔を向けた時にオレが見たものは、幸せそうにふやけた笑顔をしているアルフォンスだった。
それを見て、オレの中で燃えていたアルフォンスを兄離れさせるという決意は呆気なく消えてしまった。
もし、オレが兄離れさせることを成功させてしまったら、こんな顔は見られなくなるではないか。
そんな事を考えてしまうあたり、オレも結構ブラコンなのかもしれない。

「兄さん…ふへへ」
アルフォンスはまだ満足そうな声を上げて抱きついている。
別にオレだってこうされる事が嫌な訳ではない。
ひとまずそう決めつけて、オレはもう少しこの時間を味わうためにアルフォンスに身を任せる事にした。





…そして、抱きついてくる弟のニオイに落ち着いてしまうあたり、オレにはもう、終わりが近いのかもしれない。
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