ポケモン非公式の小説
□第三章
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ユヤは裏山の洞窟の前まできて、自分の家を見返した。
サツキが手を振っているのが見える。
両親に旅行してくると一言告げると、あっさりと「行ってこい」と言われた。
両親はアブソルをパートナーに、ユヤがトレーナーになったと思って喜んでいた。
まさかアブソルを放す場所を探すための旅だとは思っていないだろう。
ユヤのあらゆるところには包帯が巻いてある。
頬には絆創膏とガーゼ。
毒消しを使ったことで毒は抜けたが、切り傷の方が酷かった。
ユヤの器械ではある程度治癒させることは出来たが、やはり完全な治癒は難しくて、薄っぺらい皮をどうにか再生出来たくらいだ。
旅だちにしてはあまりいい状態とも言えないが、まぁいっかと暢気に深く考えることもしなかった。
ユヤは軽くサツキに手を振り返す。
そしてモンスターボールからアブソルを出してやった。
獣医さんがモンスターボールに慣れてないのに入れっぱなしだと可哀想だなどと言ったからだ。
アブソルは一声鳴くと、ユヤの隣に立つ。
大きいな、とユヤは改めて思った。
獣医さん曰く、普通のアブソルよりもずっと大きいくらいだ。
ユヤはアブソルの首を撫でてやる。
アブソルも避けることはしない。
少しはなついたのかな、とユヤは感じる。
ユヤもアブソルが前よりも可愛く見えた。
それでも、放すと約束したのだから、約束は守る。
なついたなつかないは重要ではないのだ。
「お前がどっから来たのか分かれば、すぐにお前の故郷に行けるのにな」
ユヤはアブソルに話しかけると、足を前に踏み出した。
洞窟への第一歩。
洞窟の途中で分かれ道があるが、片方は大きな岩が邪魔して今では通ることが出来ない。
曲がることをせずに真っ直ぐ道を進めば、すぐ隣町のフジタウンに着く。
「ポケモンが出るんだよなぁ、ここ。出口はすぐなんだけど」
ユヤが面倒そうにぼやくと、アブソルが応えるように鳴いた。
彼はアブソルの顔を見る。どこか笑っているように見えるのだが、とユヤは苦笑した。
「じゃ、お前に任せるよ、そん時は」
洞窟の中はひんやりとしていた。暗いが、出入口から漏れる日で道を見失うことはない。
ゴツゴツした足場で、歩く度に固い足音が鳴る。
いわ系統のポケモンの中でもよく見られるイシツブテが、岩に混ざって蠢いているのが認められた。