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□Sleeping My Lover
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日曜日の午前七時。
休日にしては少しだけ早い時刻に豪炎寺は目を覚ました。
「ん……」
濃い色をしたカーテンの隙間から射し込む白い陽光に目を細める。
あまり寝返りをうつとすぐに落ちてしまいそうな位置に寝ていた豪炎寺は、ゴロリと緩慢な動作でベッドの中心へと寝返った。
「……」
身体の向きを変えた途端、頬を緩ませる。
その柔らかな視線の先では、元プロサッカー選手であり以前通っていた学校の教師でもありサッカー部の監督でもあり今は豪炎寺の恋人である二階堂修吾が穏やかな寝息を立てていた。
仰向けになり、規則正しく腹を上下させるその姿に豪炎寺は胸が暖かくなるのを感じた。
「……監督」
「……」
呼んでみても二階堂は目を覚まさない。
変わらず寝息を立て続ける二階堂の顎を少しだけ触ってみる。
不揃いに生えた髭が指先に触れ、チクチクとした感触が訪れた。
試しに長めのものを一本引っ張ってみると、二階堂の眉が歪められ、喉から唸り声が聞こえた。
「……ふ」
その姿が何だか面白くて思わず肩を震わせる豪炎寺。
それでもまだまだ二階堂は目を覚まさない。
「…………」
まだ早い時刻なのでもう一度寝てしまおうかとも考えた豪炎寺であったが、せっかく目を覚ましたのだからもう少しだけ二階堂の寝顔を眺めておくことにした。
「……んー……」
そうしていると二階堂が再び喉を鳴らした。
起きるかと思ったが全くそんな気配は見せずにまたすうすうと腹を上下させだした。
「……」
じっと眺めているとあまりに健やかなその寝顔についイタズラをしたい心が疼きだす。
豪炎寺はその疼きに忠実に従うことにした。
掛け布団から腕を出し、伸ばした指で鼻を摘んでみる。
「…………んがっ……かー……」
一度身体を震わせたかと思うと、これまで閉じていた口を開いてそこで呼吸をし始めた。
「…………くくっ……!」
鼻を摘まれても起きない、それどころかぽかりと口を開いて寝る姿は些か間抜けに思えて仕方なかった。
ただあまり口で呼吸をするのは良くないと感じたので豪炎寺はすぐに手を離した。
しかし、二階堂の開いた口は塞がらなかった。
「……んー……」
次はどうしようか思考を巡らす豪炎寺。
このまま普通に口を閉じてしまおうか、それか何か口の中に入れてしまおうか。
普段は周りに比べ少々大人びた印象のある豪炎寺であったが、この時ばかりは欲望に忠実に、幼いイタズラ心を存分に膨らましていた。
しかし、不精髭に囲まれた二階堂の口を眺めながら色々と考えているうちに、いつしかその思考回路は昨夜の記憶と結びつくようになっていった。
“豪炎寺……”
「……っ!」
ふと頭の中に流れた二階堂の声に思わず顔を火照らせる豪炎寺。
普段の穏和なものとは違い、最中にだけ聞かせる低く艶のある声が頭の中で繰り返されていく。
「ぅ……っ」
そのループを断ち切ろうと自らの目を覆う豪炎寺。
それでも止まぬ情事の記憶に、豪炎寺は八つ当たりとばかりに二階堂の頬を引っ張った。
「……ぅぇ……」
「…………」
不意に漏れた二階堂の妙な声に豪炎寺は一瞬キョトンとしたが、すぐに我にかえると再びやって来た可笑しさに肩を震わせる。
面白くなってきた豪炎寺は頬を軽く抓ったり押したりして遊び始めた。
すると、今まで仰向けで寝ていた二階堂が唸り声をあげながら豪炎寺に背を向けるようにして寝返りをうってしまった。
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