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□宴を開こう!
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二階堂が居酒屋の扉を開くと、見覚えのある顔があった。
四人掛けの座敷に向かい合わせで座る二人組に二階堂は近づいていった。
「あの、こんばんはー……」
控え目に挨拶をすると、静かに会話をしていた二人が振り向いた。
「おやおや。貴方は木戸川清修の……」
「ぁ、二階堂です。お久しぶりですね、地木流さん」
「えぇ、えぇ、本当に……ぁ、ご紹介します。こちら、少年サッカーの監督などをしてらっしゃる吉良瞳子さんです」
「あぁ、やっぱり! テレビなどで拝見していました」
「こんばんは、二階堂選手。私も、あなたのことは存じ上げております」
「いやぁ、選手だなんてそんな……」
瞳子の言葉に二階堂が照れていると、店の扉が開く音がした。
それに三人が一様に振り向くと、そこには少し驚いた顔の久遠がいた。
「……こんばんは」
「ぁ、こ、こんばんは……」
「あら、こんなに一気に集まるだなんて凄いですね」
「フフフ……」
久遠、二階堂、瞳子が驚く中、地木流だけは含みを持たせる笑みを零していた。
「さぁさぁ、二階堂さんも久遠さんもこちらへどうぞ。折角ですからご一緒しましょう」
地木流が人の良さそうな笑顔で座敷を整えていった。
そこに促されるまま二階堂が地木流の隣に、久遠が瞳子の隣へと腰を落ち着かせた。
「さて、皆さん何をお飲みになりますか?」
やけにウキウキとして楽しそうに場を仕切る地木流。
それに対して久遠だけは怪訝な顔をしていた。
「あれ? お二人はまだ何も頼まれてないんですか?」
二階堂が地木流と瞳子に言うと、二人は同時に頷いた。
「えぇ。私がお店に入ったら地木流さんがいらっしゃって……相席させていただいた途端に続けてお二人がいらっしゃいましたから」
クスリと微笑んで言う瞳子に、二階堂は思わず喉を唸らせた。
「うぅーん……どういう偶然が重なったらこんなにも同業者が集まるんでしょうか……」
「さぁ、どうしてでしょうねぇ?」
そう言う地木流は未だクスクスと笑っている。
「まぁ、たまにはこんな事もありますかね? じゃあ、とりあえずビールいきますか?」
二階堂の言葉に久遠は「たまにでもこんな事無いだろう」と心の中で冷静に突っ込んだ。
「おやおや、二階堂さん。女性もいらっしゃるんですよ? いきなりビールだなんてそんな……」
「構いませんよ。私も、ビールは好きですから」
瞳子が言うと、地木流はまた「おやおや」と言って肩を竦ませた。
ひとまずの注文を終え、しばらくすると、お通しとともにビールがやってきた。
「あら、美味しそうなお通し」
「そうですねぇ」
「さて、それでは皆さん。今宵、こちらで出逢えたことの奇跡に……乾杯」
「か、かんぱーい……」
「乾杯」
「…………」
地木流の妙にくさい挨拶に二階堂は呆気にとられながら、瞳子は冷静に、久遠に至っては無言でジョッキを掲げた。
そうしてまたしばらくすると、席には次々と注文の品が並べられてきた。
「おぉ〜、旨そ〜」
二階堂は至極嬉しそうに箸を手にした。
「先にサラダを分けましょうか」
そう言って瞳子が小皿を各自に手渡していくと、二階堂は少し恥ずかしげにして箸をおろした。
「クッ……そんなに腹を空かせてたんですか、二階堂さん」
それを見た久遠は思わず笑いながら二階堂に言った。
「いやっ、そんなことは……ないこともなかったりあったり……」
「……ククッ」
「そ、そんなに笑うことないじゃないですか……」
「ふふ、二階堂さんたら、カワイイですね」
「か、かわいいっ!?」
「えぇ」
瞳子にニッコリと微笑まれ、二階堂は顔を赤くしながら苦笑した。
「フフフ……さぁさ、二階堂さんが我慢できないようなので、早くサラダを分けてしまいましょう」
「もうっ地木流さんまで!」
三人にからかわれて二階堂は今度は口を尖らせた。
「そう拗ねずに……ハイ、二階堂さんの分です」
そんな二階堂に瞳子はクスクスと笑いながら手際良くサラダを全員に分けていった。
「さぁ、いただきましょうか」
「えぇ、二階堂さんも待ちわびてますし」
「うっ、もう勘弁して下さいよぅ……」
「……クッ」
「久遠さんっ」
「失礼」
すっかりからかいの対象となる二階堂に、一同はカラカラと笑いながら料理を口に運んでいった。
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