恋愛前線上昇中

くっつかない右と左
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「俺は女子なんか大っ嫌いやねんっ!!!!!」



そう言い放ったきり、謙也くん…もとい忍足くんは再び机に突っ伏してしまった。
先生も教室から居なくなり、賑やかになり始めた教室。
私は綺麗に色が抜かれたその髪を眺めながら気分は落ち込んだままだ。
普通初対面の人にそんなこと言わないでしょう。
しかも大声出されちゃってビックリしたし。
一体私が何をしたって言うんだろう。



「堪忍なぁ、ひよりちゃん。」



後ろの席の白石くんが私に向かって謝ってくる。



「あ、別に白石くんが悪いわけじゃないから。」

「まぁ謙也の女嫌いには一部俺も関係しとんねん。」

「そうなの?」

「中学んときの話やねんけど…。」



白石くんのお話だと、二人がまだ中学三年生の頃に遡ることらしい。
当時の忍足くんには彼女が出来て、それは学校内でも有名になったとか。
ちらっとしか見ていないけど、忍足くんもイケメンな部類だと思う。
何だかんだで白石くんと並びに影ながらモテてたんだとか。
そんな忍足くんに彼女が出来たというのだから、噂なんて一気に広まることになる。
忍足くんに好意を寄せていた女子が注目したのが忍足くんの彼女。
何でもすっごい可愛い子だったみたいだけど、その子にも噂があった。



「ほんでな、まぁ恋人同士やしそんな雰囲気にもなるわけや。謙也が家に彼女を連れてってん。」

「はぁ…。」

「そこまでは良かったんや。いざっ!とヘタレな謙也が勇気を出したときに問題が起こった。」

「も、問題…?」

「その彼女な、実は男やってん。」

「………は?」

「俺も聞いたときはビックリしたわー。脱がせにかかったら実は男やったやなんて話、笑ったわ。」



と白石くんは思い出し笑いでもしたかのようにお腹を抱えて笑いだした。
結局その彼女とはすぐに別れたらしいけど、忍足くんはすごいショックを受けてたらしい。
それ以来どんなに可愛い子が告白してこようが断り続けているんだとか。
不憫な…と忍足くんに同情してしまう。
視線を忍足くんに向ければ、いつの間にか起き上がっていた忍足くんと目が合う。
さっきのこともあって思わずビクッと後退り。



「ちょお待てや白石…。何勝手に人の黒歴史をペラペラと転校生に話してんねん。」

「ええやん。減るもんじゃないんやし。おもろいし。」

「何がおもろいんじゃボケー!!人のネタで笑いおってからに!!」

「なんや。何をそんなに怒ってんねん。」

「元はと言えばなー!!アイツかわええでって紹介したん自分やないかい!!」

「えっ。」



思わず驚嘆の声が出る。
白石くんはあはっと笑って誤魔化している。
そこに忍足くんが掴みにかかり白石くんを揺さぶり始めた。
尚も笑う白石くん…これは忍足くんが可哀想だ。



「まぁ謙也。ひよりちゃんと仲良うしいや?」

「はぁ?!なんでやねんっ!!」

「ひよりちゃん、今日から男子テニス部のマネージャーしてもらうからや。」

「「えっ?!!」」



本日二度目の驚きの声。
謙也くんの声と重なって更にビックリ。
目が合ったけど、すぐにふいっと逸らされた。



「そんな話、俺聞いてへんわっ!」

「わ、私も今聞いたんだけどっ…!」

「そりゃ今言うたからなぁ。でもどうや?やってみぃひん?」

「俺は却下やで!!部活に女おったらアカン!!」

「そんなこと言うなや。きっと色々助かるで。人助けやと思って、な!頼むわっ!!」



まるで捨てられた子犬の如く目を潤ませて私の手を強く握ってくる白石くん。
そんな彼を見放す酷い人間になりたくなかった。
仕方なく首を縦に振った。
その様子に忍足くんは空いた口が塞がらないらしい。



「ほな、二人とも挨拶せなアカンな!」



白石くんに腕を掴まれ、忍足くんと向き合う。
忍足くんも白石くんに腕を掴まれ、無理矢理向き合うよう体勢に変えられる。



「桜井…ひよりです…。」

「………。」

「謙也!」

「あーもう分かった!忍足謙也やっ!!これでええやろ!!」



そう言い捨て、忍足くんは立ち上がるとどこかへ消えてしまった。
授業が始まっても戻ってくる様子もなく、使用者が居なくなってしまった席は…一人取り残されて何とも寂しげでした。





くっつかない右と左


近いようで遠い距離



2012/05/12


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