小説

□幸せが溢れた朝2
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仕事もしない
ただする事がない平和な時代

新撰組は一体何をしているのか…
そう思ってるやつも少なくはない
でも俺はその新撰組の奴がしっかりと
周りの平和を守っていることを知っている



そして俺の働く店に不動明王が来るようになった

「よぉ」
「……」
「無視か?」
「…ご注文は?」
「無し」
「じゃあでてけ!」
「おいおい、デカイ声だすなよ…客がビビってるだろ?」

愉快そうに不動は笑って俺を見上げる

此奴はいつも昼に来て、勝手に帰っていく妙な奴だ
初めはただの客かと思っていたが…

「は?新鮮組」

どこで働いているのかと聞けばそう答えるのだ
本当にこの国は平和なんだと思い知らされる
警察がこんなところで油を売っていていいのだろうか、と常日頃から思っていた
でも、俺は自然と不動を嫌うことは無かった
別に営業の邪魔をするわけでも、しつこく話しかけてくる訳でもない
歳も近かった為か、話しやすい“友人”になっていた

そしてある日、いつもどうり昼頃から来ていた不動と話して接客をしていると
帰ろうとする不動から初めて話しかけられた



「…ホント、不用心だな」
「は…?不動?」

ただいつもと違ったのは俺の言葉に初めて返してくれなかったのと
いつもと違う空気を纏った不動が何かある、と感じさせたことだ


・・・だからって、俺なにしてんだろう…

そう心の中で呟く
さっきのが気になりすぎて休憩がてらに不動を捜しに来たのだ
しかし人の多い江戸の町で人を一人見つけるのは難しい
それを今になって理解し始めた

帰ろうかなぁ…

そう考えているとき、ガッ!!と言う音が聞こえる
別段珍しいことでもないのにその音が聞こえた場所を覗き込んだ


「次、あの店で同じことしたら」


不動の声だ…
そう聞こえたところを隠れるようにして覗くと刀を抜いて鞘に納める不動がいた
その前には震えている町人が一人、さっき俺の店にいた奴
不動はそのまま俺が覗いた反対の方から大通りに出ていく
そしてその町人は俺の方の通路に走ってくる

「あの…」
「ヒィッ、すす、スミマセンでした!!食い逃げなんてもうしませんッ!!」

俺を見つけると、町人は俺が内容を聞く前にそう言いながら土下座した
別に俺は咎めようと思っていないが、不動に脅されたのだろうと少し溜息がでる

でも、ちょっと安心した
不動が違うところにいる気がして、少し不安になっていたのかもしれない

「・・・何で不安、だったんだろ」


友達だから?
だって不動は俺の店の為に食い逃げする奴らを俺が見えてないところで成敗してたんだろ…
それは新撰組、だから?

そう考えると、無性に寂しく感じた
何故か心の奥で俺の為じゃないか、と願う自分がいる


「・・・お礼、しなきゃ」

そんな意味不明な自分を追い払って俺は店に戻った
店主に新撰組の退社の場所を戻ってすぐ聞いた
ここからだと歩いていける距離
俺は店主に用事ができたといい、店を抜け出した

初めてサボったのが不動のことだと少し不愉快だが仕方ない
でも、もう店番をする気分では無くなっていた

俺は家に戻り少し沈んでいる空を見る
・・・今日は早めに寝よう


幸せに浸る前日


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