小説

□幸せが溢れた朝
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真っ赤な着物を纏い
真逆の髪の色を着物に流して

江戸の町に笑顔を振りまいている


少年がいた



「いらっしゃい!!」

男とは思えない高い綺麗な声が簾をくぐると店内に響く
そして目にはいるのは白い壁に映える綺麗な“赤”と“青”
この店の看板娘、という看板息子である


江戸時代、平和が続く下町で一人産まれた少年
容姿端麗で性格はしっかり者で几帳面、そこら辺の女よりも人気あり
しかも正義感が強く悪党共をケチらせるほどの力量があったりし
男女ともから好かれていた

そのため、その少年の働く店は商売繁盛していたわけである


「・・・おい、不動」
「ぁあ?お客様に“おい”はないだろ?」
「はぁ?お客様だ?なら何か買っていただけるんでしょうか?!」


・・・ちょっと暴力的なところがたまに瑕だ
ったくよぉ、折角来てやってるのに…

「…ほんと江戸の警察は暇そうだな」
「いいことだろ?」
「はいはい…」

風丸は大きく溜息をついて仕事に戻っていった

俺は店の一番奥の椅子に座って店内を見渡す
基本は様々な客がいる
やはり込む時間帯には問題が増加するのだ
だから時々俺が直々にそういうことを成敗する

しかし、店的にはあまりそういう騒動的なことの表沙汰は嫌らしい

だから…

「…ホント、不用心だな」
「は…?不動?」


ぱっと外にでて、さっき店内にいた奴を捜す
見つけるとそいつを追いかけて行く

1m位まで近づいて、横にあった路地に蹴り入れてやった


「よぉ、食い逃げ野郎?」
「ヒッ」

鞘から抜いた刀を顔の横にブッ刺して睨む
食い逃げを働いた奴は腰が抜けたのか壁に待たれたまま、その場にへたり込んだ


「次、あの店で同じことしたら」

首を親指で横に切るそぶりをして、口元を上げた

俺はそれだけして明るい道に抜けていった
人の流れにそって歩く

とりあえず、今日は…寝っか

もう寮みたいになりかけている隊舎に俺はゆっくりと帰っていった


***


「オイっ!!」
「うぉっ!!」

目の前から大きい声がした、と思って目を開けると青と赤が目に入る


「お前!!何やってんだよ!!」
「…ってなんで、ここにいんだよ!!」
「お前が妙な事言い残してくからだろッ」
「はぁ?!」


ぐいっと詰め寄られて、さすがに後ろに引いた
正直何を問いつめられてるのかさっぱちわからない

泣き出しそうな風丸は怒るように叫んだ


「何で俺の店だけで食い逃げ等成敗してんだ!!」




「・・・知ってんのか?」
「いつもは、勝手に出てくクセに…一言言ってったから」

「心配してストーカーしてた、と?」


そう言うと、パッと顔を赤くして首を振る
さっきの怒っていた雰囲気とは真逆の反応でリアクションにとてつもなく戸惑う

でも、此奴が何を言いたいか…分かった


「違うっ!ちょ、丁度買い出しの途中で見かけただけだ!!」
「・・・で?」


そう聞き返すと、うっと困ったように口を閉じてしまう
正直ここまで初々しい反応だと、男なのは忘れそうだ

風丸は後ろを向く
真っ赤な耳が光を遮る障子に妙に映えた


「あ、ありが…と…正直、助かる」


そう言うとすぐに走って消えていった


「く、クク…」

こんな朝によくこれたもんだぜ

さっきの様子を思い浮かべると笑いが込み上げてきた
でもこの笑いを他の奴に聞かれるのも、尺にさわる
そしてあの赤い顔を平隊士に拝めた奴がいたら斬りそうだ


幸せが溢れた朝

(俺から、見たお前はこんなんだ)




NEXTあとがきand続き予定




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