人間シリーズ

□彼女が愛しすぎる
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「ねぇ、アス兄」


「なんだっちゃ?」






その言葉はポロリと。

何の考えもなく。
何の戸惑いもなく。
何の躊躇もなく。

ただ本心のままに。
ただ本能のままに。

そう、例えば「今日のカレーおいしかったね」とでも言うように、
私の口から零れ落ちた。






「私、アス兄のこと好きみたい」






ピタリと、本を読んでいたアス兄の動きが止まった。





「好き、恋しちゃった。どうしよ」





驚いたように顔を上げるアス兄。
そしてすっと目を細めていった。






「10歳以上年が離れてるっちゃ」


「年なんて気にしない」


「犯罪っちゃよ」


「法律的になんら問題はない」


「兄妹だっちゃ」


「血はつながってない」







淡々と言う私にアス兄はため息をつくと、持っていた本をパタリと閉じた。
そして、ソファーから立ち上がると、壁にもたれかかっていた私の前に来た。





じっとその緑の瞳が私を捉える。
あぁ。

アス兄って背高いな。
アス兄って顔きれいだな。
アス兄って目の色綺麗だな。
アス兄っていい匂いだな。
アス兄のすべてが好きだな。







「叶織…すまないっちゃ。妹としか、考えられないっちゃ」







そういうアス兄の顔は悲しく歪んでいた。
あぁ、そんな顔させたいわけじゃ、ないのに。






「うん、わかってた。ごめんね」






笑ってそういう私だけど、本当は辛くて、悲しくて、泣き叫びたい。


気まずい空気が流れる中、ピロロロと私の携帯がなった。
ナイスタイミング。

内容は仕事のお呼び出しだった。
ちょうどいい、仕事いって、この辛さを忘れられるかも知れない。






「アス兄、行ってくるね」


「…あぁ」


「あ、そうだ」






部屋を出ようとして、私は振り返り、できるだけ明るく言う。






「アス兄、今日の晩御飯はオムライスがいいな」


「…わかったっちゃよ」






今日は早く帰れるから、といってにっこりと微笑むと私は家を出た。


頬を何かが伝った気がするのは、きっと気のせい。
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