短編集

□春雷
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「―…あー、くっそ!重いんだぜこんちくしょー。何なんだよゴミ出しとかよー」



ぐちぐちと、呟きながら歩く私。



はい、ここで。

いきなりの展開についていけない人達の為に、状況説明をしようではないか。


私は今、校舎裏のゴミ出し場までゴミを運んでいる最中である。

ちなみに左手には特大サイズのゴミ袋3つ、右手には更に特大サイズのゴミ袋1つ+ゴミ箱。


そんな状態で、よろよろと校舎裏を歩いている。


何故そのような馬鹿馬鹿しい状況に陥ったのかといえば、理由は至って簡単。

担任に、頼まれたから。それだけ。



念のため言っておくが、冒頭のセリフは頼まれて不機嫌になった結果からの口の悪さである。

別に普段はこんな喋り方しない。もっとおしとやか(嘘)だ。



うーむ…、だがしかし。



たかがゴミ出しを頼まれただけで不機嫌になるとは、器の大きい私らしくも無いなぁ。

よし。ここはひとつ、テンションを上げていくとするか!



…なんていう、馬鹿丸出しな考えの末。

とりあえず私は、歌でも歌っておくことにした。




「ざーんこっくな、天使のテェーゼー…」




…そしてこの歌である。

いやだって!これしか思い浮かばなかったんだもの!



そんなこんなで、私の頭の中のお花畑を満開にさせていた(つまりは馬鹿になっていた)時。

私はゴミ出し場へ行くために、校舎の角を曲がろうとしていた…のだが。




「しょーうねーんよ、神話になー…」


「好きです!」


「…ぁ、れっ!?」




突如、近くの場所から、可愛らしい女の子の告白する声が聞こえてきた。

ビビった私は急いで校舎の角っこに戻り、恐る恐るその方向に目を向けてみる。


するとそこには、一人の可愛い女の子と一人の男の子が向かい合って立っていた訳で。

どうやら告白現場に遭遇してしまったらしい。


…超青春な現場に残酷な〇使のテーゼを歌いながら入ってきた私、ただの馬鹿である。


き、聞こえてないよね…?と少し不安になったが、

見た様子から彼女達は、私の存在には気付いていなかったらしい。


とりあえず一安心だ。危ない危ない。



―…ところで、ゴミ出し場へ行くにはこの現場を横切らないと到着できないのだが。


生憎私にはそんな事をする勇気がなかったので、終わるまで隠れて待っていることにした。

言っておくが決して盗み聞きなどではない。思いやりだ。



…と、いうか。

あんなにまで可愛い女の子に告白される男子って、一体誰なんだろうか。


そんな思考からちょっとした好奇心が生まれた私は、

相手の男の子を確かめるべく、チラリ、とその現場にもう一度目を向けてみた。


すると、そこにいたのはイケメンでモテモテなことに定評のあるクラスメイトの仁王雅治くんで。


なるほど、彼ならあれくらい可愛い女の子に告白されてもおかしくはないな、と。

勝手に納得する私だった。



やっぱり、モテる人は放課後までこういうイベントが盛り沢山なのだろう。

いいね、青春だね…!




「え、っと…だから、仁王君。私と、付き合って…もらえませんか」


「…すまんが、俺には好きな奴がおる。おまんとは付き合えん」


「っ…そ、っか」




女の子は涙目になった自分の顔を隠そうと、無理矢理笑顔を作ってそう言った。

そして顔を真っ赤にさせたまま、その現場から去っていったのだった。


わずか一瞬の出来事。


てっきりオーケーしちゃうんだろうなーとか思っていた私、唖然である。



…うーん、やっぱりモテる人はそういう感覚が違うのだろうか。

だとしたら、流石というか何と言うか…プロ、だな。


というか、仁王君好きな人いたんだ…ビックリだぜ。

そういうの興味なさそーなのになぁ…。




「…盗み聞きとは随分性質が悪いのう、名字?」


「うおぉっ!?」




ボーっと考えこんでいたら、いつの間にやら移動した仁王君が校舎の角から顔を出してきた。


うわあお、バレテーラ。




「あっ、に、にに仁王君じゃないか!きっ、奇遇だなぁあはは!」


「笑ってしらばっくれようとしても無駄じゃき。詐欺師の目はごまかせんぜよ」


「い、嫌だなぁ、何の事だい?私は何も聞いてないよ?うん、告白なんて聞いてない聞いてない」


「そう言ってる時点で聞いとったのがバレバレじゃ」




ま、聞かれた所でどうしようもないんだがの…

と、続ける仁王君。



…あれ、怒ってた訳じゃないんだ。


何だ。焦って損したぜ、全く。




「え、えーっと…。あんな可愛い子振っちゃうなんて、勿体ないねー、仁王君」


「顔は関係なか。それに、好きじゃない奴に告白されても、断るしかないぜよ」


「はは…、そういや好きな人いるって言ってたもんねぇ…」




モテる人の言う言葉は違う。

いいね、一度でいいからそういうこと言ってみたいよ。




「…ただ、」


「お?」


「ただ、名字だけには見られたくなかったのう…」


「え、え?いや、私別に言いふらしたりとかしないよ?」


「……相変わらず鈍い女じゃき」


「はへっ!?」




…何故か仁王君に溜息を吐かれました。

な、何だと言うのだ一体…!




「…名字」


「はいっ!」


「俺の好きな奴の特徴、知りたいか?」


「え?…まぁ、知りたくないこともないけど」


「じゃ、まず一つ。突然アニメの歌を歌いだす」


「あ、アニメ?…ほぉ」


「二つ。担任にかなりの量のゴミ出しを頼まれている」


「どっ、同類だと…!?同情するよ!」


「三つ。人の告白を盗み聞きする」


「はは、随分嫌な趣味を持つ子だなぁーって、あ、あら…?」


「…最後。鈍感」




そう言って、ニヤリと笑う仁王君。


…い、いやいやいやいやいやいや。ちょっと待て。ちょっと待て!

な、何か思い当たる節が自分にありすぎてどうしようなんだけど…ま、まさか。まさかそんなはずは!


だってあの仁王君だぜ?モッテモテの仁王君だぜ?

そんな手も届かないであろう人が私に好意なんて抱く訳がっ…!




「え、えーと…あ、あれ?」


「…まぁ、そんな訳じゃ。知られたからには、もう俺も容赦はしないぜよ」


「え、え…え?」


「これからは、どんどん攻めさせてもらうからの。覚悟しんしゃい」


「なっ…!?」




バリバリバリッ、ドッカーンと。

私の心に、何かが落ちた気がした。


それと共に、私の心の中の何かが目覚め始めたのだった。





春雷
もうすぐ私にも、春が訪れるという前兆なのだろうか。


(…ん?でも、“妙に昔のアニメの歌を歌う”なんてこと私しない……はっ、もしや!?)

(まさか名字がエヴァ〇ゲリオンのファンだったとはのう…)

(うわあああやっぱり聞かれてたああああ!!)






-END-


素敵お題サイト様「fisika」から拝借。

私はクールな仁王が好物です((シラネ
 

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