短編集

□Love is best.
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「―…ねぇ、柳生」


「はい?」


「恋って、何なんだろうね?」


「……は」




ポロリ、と。

柳生が持っていたシャーペンが、彼の手から落ちた。



はい、ここで状況説明。


期末テストの英語で赤点を取ってしまった私は、英語の追試を受ける破目になった。

だが案の定、勉強しようにも教えてくれる人がいなければ無理だ!ということになり。


クラスの中でも割と仲の良い秀才・柳生(通称紳士)に相談してみた結果、

放課後、彼に英語を教えてもらうことになったのだ。


そして今現在その勉強会の最中であり、冒頭に戻る。



私が何気に言ってみた言葉は、彼にとって驚くべき破壊力を持っていたようだ。


紳士さん、口がポッカリ空いてます。




「…急にどうされたのですか、名字さん」


「あ、いや…特に深い意味はないんだけどさ。何か頭に浮かんだから」


「そう、ですか…」


「うん」




私が理由を言えば、何故か目の前の彼は安心したかのような溜息をついた。

私何かおかしな事言ったっけ…と記憶を辿れば、おかしな事だらけであった。あら大変。


とにかくそれらしい理由は見つからなかったので、放っておくことにしたが。




「…名字さんは、恋をした事がないのですか?」


「ん?…あー、ない。うん、ないね」


「ほ…本当ですか?」


「え、私そんな恋多き女に見える?」


「あ、いえ。そういう訳ではなくてですね…」


「?」




「まぁ、気にしないで下さい」と苦笑しながら咳払いをする柳生。


…何かさっきから紳士が挙動不審な気がする。どうしたジェントルメンよ。

私の発言は、それほどまでに破壊力を持っていたのだろうか…?




「…あ。そういう柳生はどうなの?恋とか、したことある?」


「ある…ことには、あります」


「おおお、凄い!じゃあさ、恋ってどんな感じなの?」


「…楽しそうですね、名字さん」


「何か経験者がいるとワクワクしちゃって。それで、どんな感じ?」


「どのような、と聞かれましても…」




言葉にして表すには難しいです、と言葉の後に続ける柳生。

その言葉に、やはりそういうものなのか…と納得する私。


これが経験者と未経験者の違いである。


…何か自分で言って悲しくなってきたぞ。




「そっかー、やっぱり恋って難しいものなんだねー…」


「…それより名字さん、何故そのような事が気になったのです?」


「ん?いやぁ、周りの女の子は皆ピンク色のオーラで輝いてるもんだからさー。恋ってそんなに良いものなのかなーって思って」


「あぁ、なるほど」


「でもそう考えるとつくづく恋って分からんわ〜。一体何者なんだろうね?」


「そう、ですね…」




冗談交じりに私が言ってみると、それを受けて真剣に考え出した柳生。

流石紳士、話をよく聞いてくれる。



うーん、冗談のつもりだったんだけどなぁ…。




「あの…柳生?何となく気になっただけだから、そんな真剣に考えなくても…」


「…Love is tyrant sparing none.」


「へ?」




柳生がいきなり理解不能な言語で喋り始めた。うん、分からん。

え、え?と私が焦りながら聞き返すと、彼は苦笑して日本語を話し始めた。




「これはコルネイユの格言ですよ。“恋は、何人をも容赦しない暴君である”というね」


「何人をも、容赦しない…暴君?」


「ええ。それほど、恐ろしいものなのではないですか?」


「ほぉー…」




そうか、暴君な…暴君。


うーん、何か怖いなぁ。




「恋って、そんなものなんだ…」


「いえ、これはあくまで一般論ですので。…けれど私は、この言葉は正しいと思いますよ」


「え…そうなの?」


「はい。まぁ私の場合、本当に容赦しないのは恋よりも想っている相手の方ですがね」


「おお…体験談ですか」


「えぇ。恋をしている相手から恋について問われた時点で、心臓が止まるかと思いましたよ」


「あらあら、そんなにまで鈍感な方がいらしゃって?」


「えぇ、目の前に」


「へぇ、目の前に…って、ん?」


「…やっとお気づきになりましたか」




ここまで大変でしたよ…と目の前で溜息を吐く柳生。

それに対して、頭の中がパニック状態な私。


え、えぇと…これは、どう対処すればいいんだ…!?




「な、は…ええっと」


「あぁ、すみません。そこまで混乱させるつもりはなかったのですが…」


「はは…嘘つけ…」


「本当ですって。ただ少し、」




意地悪したくなっただけです

…と、笑顔で言う目の前の紳士。


この瞬間、手元の英語テキストにかいてあった、

「He is far from being a gentle man.(彼は決して紳士では無い)」

の文章を叫びたくなったのは、言うまでもないのであった。





Love is best.
愛は最上なり。


(…では、先程の英語の続きと参りましょうか)

(先生もう頭が働きません)






-END-



素敵お題サイト様「fisika」からお借りしました。

書いてる途中で話が滅茶苦茶になったのが一目でわかりますな。

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