短編集

□あともう一言
1ページ/1ページ





そういや、最近気になる事と言えば。


クラスメイト兼生徒会仲間である跡部が、妙に私の傍によってくる事だ。




「―おい、名字」


「え?あ、はい何でしょう」


「今日の生徒会、忘れるんじゃねーぞ」


「は?いや忘れちゃいないけど…まぁ、心得とくよ」


「あぁ」


「…?」



「名字」


「おぉう…。何だい会長」


「次何の教科だ?」


「え?…英語だけど」


「英語か…、今更面倒だな」


「ええー、面倒と言われても…」



「名字。生徒会室の鍵当番、やっておいたからな」


「えぇっ!?何かごめん!」


「俺様が使いたかっただけだ。別に謝る必要はない」


「えええ…」




―…と、まぁこんな風に。

一日のうちに、跡部と会話する事が何かと多いのだ。



…いや、これはただ私が自意識過剰なだけなのかもしれないが。

それにしたって、不自然すぎるだろう。


だって、あの超完璧主義の跡部がだ。

あの跡部が、私なんかに時間割を聞いてくる時点でどう考えてもおかしいだろう。



一体、我が校の生徒会長(通称跡部様)に何があったというのだろうか。

気になる。物凄く。



…なんて、妙に沢山話しかけてくる跡部に不審を抱いていた頃。


生憎、今日が教室掃除当番であった私は、

何故か担任に頼まれてゴミ出しへ行く破目になっていた。


しかも担任が持たせたゴミ袋は計4つ。


先生は「量が少ないから平気平気ー」なんてへらへら笑いながら言っていたが、

どこをどうすれば「平気」だなんて思想に辿りつくのかが私には分からない。


いや4つって。ゴミ袋4つって。

人間の手は2つしかないんですよー先生。



…と、私が若干教師に怒りを感じていた時。

突然後ろから




「何頼まれてやがんだ、アーン?」




という、何だか凄く聞き覚えのある声が聞こえた。


振り返ってみれば、そこには思った通り最近の悩みの発端である跡部景吾がいた訳で。

若干驚いたのは言うまでもないだろう。




「おおお…跡部。どうしたの、こんな所で」


「どうしたもこうしたもねぇ。中々生徒会室に来ねぇと思えば…何呑気にゴミ出ししてやがる」


「え…、だってまだ生徒会議の時間じゃないでしょ?あと15分はあるはずだけど」


「あーん?常に20分前行動だろうが」


「早っ!?退屈すぎてたまんないよその行動!」




…なんて。

私が彼の言動にツッコミを入れれば、相手はそれを華麗にスルーして私の横に並んだ。


おぉ、何だ何だ?と私が首を捻らせていると、

横に来た跡部はガサツに私が持っていたゴミ袋2つを奪い取る。


そしてそのままずんずんと前に進んで行った。



…ん、んん?




「ちょっ、跡部さん?ゴミ袋…、」


「仕方ねぇから一緒に持って行ってやる。その方が早く終わんだろ」


「いやいや!大丈夫、私一人で大丈夫だから!会長に持ってもらう事なんてできません!」


「はっ、じゃあさっき持ちにくそうに歩いてやがったのはどこの誰だ」


「ここの私だけども!だけども!!」


「俺様が持つっつってんだ。大人しくお言葉に甘えろ」


「うわぁ良い奴なのか嫌な奴なのか分かんないその言動!」


「良い奴に決まってんだろ」


「さいですか!」




…傍から見れば、ただの馬鹿である。

まぁ実際馬鹿なんだけども。



―っていうか。

やっぱり跡部、最近無駄に私につっかかってくるよなぁ…なんて、心の中で思ってしまう。


うーむ…、自惚れすぎなのだろうか。

分からない、分からないぞ…!?



…いっその事、聞いてしまおうか。





「…跡部ー」


「あーん?」


「何かさー、最近妙によく跡部と会話してる気がするんだけど…」


「俺様が話しかけてるからな。それがどうした」


「あ、いや。別に深い意味はないんだけど…」




ただ単に自分が自惚れ女でない事を確認したかっただけです、すいません。

…なんて事を、言える訳もなく。


とりあえずあははーと苦笑いで流しておく私だった。

だってどうしていいのか分からない。



するとそんな私の心情をどう読みとったのか、跡部が




「…俺と会話するのは、嫌なのか?」




とかいう驚くべき質問を投げかけてきた。


どうしてそうなったよ、会長…!?




「いやいや、全然嫌じゃないよ!?嫌じゃないんだけど…、」


「けど、何だ?」


「え…えぇっと、」




ど、どう言ったらいいのかがワカラナイ…!!


くそっ、ここはいっそ冗談交じりに…!




「わ、私の傍にいたいのかなー…なんて」




どうしてそうなった私ーーーー!?


そんなの「んな訳ねぇだろ」とか言われるに決まってんじゃん!

「はっ、」って鼻で笑われるに決まってんじゃんんんんん!



頼む、軽く受け流してくれ跡部!頼む!


…と、いう私の願いも虚しく。

チラリと横を見てみると、真剣な顔つきで考え込んでいる跡部がいた。



くっ…やっちまったか!




「ええっと…、跡部?今のは軽いジョークで…、」


「…お前の傍に居たいと思った事なんてないが、」


「う…ですよねー!」




ほら見ろ言われたー!




「だが、」


「え?」



「お前を傍に置きたいと思った事ならあるぜ?」




ニヤリ、と。

不敵な笑みを浮かべて、そう言った跡部。


それを受けて、案の定思考停止した私。

ここまで体がカッチコチに固まったのは生まれて初めてなんじゃないだろうか。




「え…え、え?それって、どういう…」


「さっさとゴミ捨て済ませるぞ!モタモタしてると置いてくからな」


「えぇっ!ちょ、待ってよ跡部!私馬鹿だから分かんないってば、どういう意味なの!?」


「あー、くそっ。このゴミ袋重いなー」


「それ超軽かったけど!?…ってちょっと、跡部ー!」




意味深な言葉を残してスタスタと歩いてく跡部の背中を、

私は困惑したまま、とにかく必死に追いかけていった。


…もう少し分かりやすく言ってくれれば、私だって理解することができるのになぁと。

心の底から思った瞬間であった。





あともう一言
私でも分かるような言葉を、言ってください。


(あれだけ言って分かんねぇって…どんだけ馬鹿なんだお前)

(普通分かんないと思うんだけどな!)




-END-



素敵お題サイト様「恋したくなるお題 (配布)」からお借りしました。

跡部のキャラって良い奴なのか嫌な奴なのかイマイチ掴めん。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ