短編集

□あまのじゃく
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眠い。


猛烈と言っていいほどに、眠すぎる。



何せ今は6時間目の満腹時。しかも数学の授業中である。

苦手教科の上にあんな訳の分からない記号が一杯並んでいたら、そりゃ眠気だって襲ってくるだろう。



いや、でも眠っちゃあかん。頭脳が駄目ならせめて態度だけでも…っ!


…と心の中では思っているのだが、睡魔は私を襲う事をやめてくれない。



その後、ああだこうだとしばらく睡魔と格闘していたのだがどうやら私に勝ち目はなかったらしく。


気が付けば私の意識はどこかへぶっ飛んでしまっていた。



…否。

もっと簡単に言い直せば、寝た。



そのまま数学の授業が終わり、HRが過ぎ、放課後にいたるまで。

私は完璧に、爆睡していたのだ。



起きた時にはもう教室には誰もいなく、完全に一人ぼっちであった。



何事!?と思って時計を見れば、勿論針は驚くべき数字を指していた訳で。


案の定、驚愕した。

そして自分がこんなに学校で眠れるという事に、感動した。



そんな馬鹿馬鹿しい経過を辿った所で、今に至る。


ちなみに自分の席からは一切離れておらず、未だ頭はボーっとしたままだ。


そしてこれはさっき気付いた事なのだが、

どこかの心の優しい男子さんが寒さを防いでくれたらしく、私の肩には学ランがかかっていた。


そのおかげでぽかぽかしながら眠れました。おおきに男子さん。


まぁとりあえずまだ時間はあるんや、目が覚めるまでこのままボーっとしていよかな…

なんて事を考え始めていた、その時。




「おっわ、生きとるやんけ」




…という、随分失礼な言葉が聞こえた。


誰やねんそない失礼な事言いやがんのは!と声の方向に顔を向ければ、

そこにいたのは幼馴染兼喧嘩仲間兼席が隣同士という繋がりのありすぎる一氏ユウジで。


何となく想像通りであった相手の登場に肩の力が一気に抜けた。


こいつは本当に期待を裏切らん。




「なんや、ユウジか…つまらんわ」


「つまらんって何や!俺かてお前なんかと話しても全然おもろないわ!」


「はっ、じゃあ何でここにおんねん!部活はどないした部活は!」


「忘れもんじゃ!何か文句あるかボケェ!」


「いちいちんなもんに文句つけるか!とっとと忘れもん取って行きや!」


「そうするつもりやったわ!けどさっきまで死んどった奴が生き返っとったらそりゃ驚くやろ!」


「死んどらん、寝とっただけや!」


「なっ…死んでたんちゃうんか!?」


「真顔で驚くな傷つくわ!」




ぜいぜいはぁはぁ。


そんなになるまでの口喧嘩を二人で一通りし終わると、

ユウジは「はんっ」と鼻を鳴らし自分の席へ向かった…と思ったのだが。


何故か彼は私の近くまで来て、手を私の方へ差し伸ばしてくるというおかしな行動をとった。



一体、何なんやろかこれは。




「え、と……お手?」


「〜〜〜〜っ、ちゃうわ!何で人間にお手させなアカンねん!」


「だ、だって!無言で手出されたら手置きたくなるんが人間やろ!?」


「んな馬鹿な人間名前だけや!」


「うっわ失礼!今の発言超失礼!」


「っ…たく、ホンマ面倒やわお前!」


「何でや!?」




私がそう言えば、ユウジははぁぁ…と深い溜息を吐いて私を見る。

そんなユウジが分からなくてん?ん?ん?と私が首を捻らせていると、彼はまた口を開いた。




「…学ラン!」


「……はぇ?」


「俺の学ラン!起きたんなら返しや!」


「……………え、もしかしてこの肩にかかってる学ランの事?」


「おん」


「え、じゃあ何や?どこかの心の優しい男子さんはユウジやったん!?」




あらまぁビックリ。


衝撃の事実やわ。




「ちゃ、ちゃう。名前への親切心ちゃうで!俺は見苦しいお前の寝顔を見えないようにしただけや!」


「みぐっ…私そんな醜かってん!?」


「お、おん!涎たらしとったわ!」


「嘘や!濡れてへんかったもん!」


「せやけどイビキはかいとったで!数学の時間うるさくてしゃーなかったわ!」


「くっ…それは否定できんな!」


「認めるんか」




よく分からない口論を繰り広げた後、私は改めて肩にかかっている学ランに視線を移す。



…そっか、これユウジがかけてくれたもんやってんな。


何だかんだでやっぱコイツは優しい。

多分、あんな事言っとるけど本当は親切心でかけてくれたんやろ。


そう思えば、何か心が温かくなったような気がした。



未だ若干顔の赤いユウジを見れば、不思議と笑いがこみあげてくる。




「ぷっ…あははは!」


「なっ、いきなり笑いだすとは…やっぱ変人やったんかお前…!」


「変人ちゃうわ。せやけど、おおきにユウジ」


「………は」


「何や、やっぱ優しいんやなーユウジ。見直したわ」


「せ、せやからお前への親切心ちゃうって言うとるやろ!」


「でも、かけてくれた事に変わりはないやろ」


「…!」


「口は悪いくせに性格だけはええんよなぁ…全く」




笑いながら「でもそんなユウジも好きやでー」なんて冗談交じりに言えば、

彼は頬を更に紅潮させて「もっ…もうええわ!」と言って逃げるように教室を去っていった。


おいおい忘れ物はどうした忘れ物は、と心の中で思ったが、

照れてるユウジの顔が面白かったので、まぁ放っておくかーと諦める事にした。


まぁもしかしたら「忘れ物」というのは口実で、

本当は私を心配して来てくれた可能性が大きいのでそれはそれでいいのかもしれない。



私には何故かいつも喧嘩腰で、どうしようもなく捻くれた幼馴染だけど。

こういうちょっとした優しさに、惹かれてしまうのかもなー…なんて思ってしまった瞬間だった。





あまのじゃく
…全く、素直やないんやから。


(あらユウくんおかえりー、どやった?)

(どっ、どうもこうもないわ!やっぱアイツどっかおかしいで!)

((これは何かあったな…))






-END-



素敵お題サイト「創作者さんに50未満のお題」からお借りしました。

何だこれユウくんじゃない。
 

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