『テニス部の練習、一回も見に行ったことないや』
何気なく言った言葉に、仁王が少し目を見開いた。わかりづらいけど仁王にしては驚いている。
付き合って1ヶ月たってないけど、仁王への片思いは長かったから彼のことはよくわかっているつもりだ。
「じゃあ、今日見にきんしゃい」
そう言われ、私はテニス部の練習を見に来てみた。……想像以上にギャラリーがうるさい。
先程の、仁王の驚いた表情を思い浮かべる。
そういえば、仁王の部活しているところを見たことがないと言ったら友人にも驚かれた。
じゃあ、仁王のどこに惚れたの?って聞かれたから普通にテニス以外のところを見てって言ったら更に驚かれた。
確かに教室での仁王は無愛想だし何を考えてるかわからないし授業もサボり気味だ。……でも、そんな不思議な人だから気になって目でおってしまっていたんだ。
私は、仁王が時折見せる涼しげな優しい笑顔が大好きだ。
…………が、今テニスと向き合っている仁王は今までに見たことない好戦的な瞳をうかべており、純粋に楽しげだった。
「あんな仁王、見たことないな…」
無意識にそうつぶやくと、なんだか少し切なくなった。いつも私の隣で微笑む、だいたいのことに無気力な人間の仁王とは別人のようだ。
仁王も、あんな表情するんだな。
仁王も、あんな懸命に走るんだな。
仁王が、………キラキラしてる。
カッコイイと思う反面、なんだか仁王がとても遠い人に思えてさみしくなってしまった。テニスうますぎるし……、なんか違う世界の人みたい…。
『仁王…』
「なんじゃ」
『えっ…に、仁王…!いつの間に…』
「ついさっきじゃ。…まったく、なに呼んでもボケッとしとるんじゃ」
『あ、ごめん…』
どうやら、私が勝手に落ち込んでいる…仁王にしてみればボケッとしている隙に仁王が来てくれたらしい。
さっとコートを眺めると、もちろんまだ部活中。
『部活はいいの…?』
「しょうがないじゃろ、愛しの彼女が呆けてたから気になったんじゃ」
『……』
“愛しの彼女”というフレーズに思わず顔が熱くなる。そして、相変わらず鋭い仁王の洞察力に感心してしまう。
遠くから見ても…しかもテニスしてるのに、ほんの少しの私の変化に気づいてくれるなんて…。本当、すごい。仁王に隠し事をできない理由はきっとここにある。
「…で、どうしたんじゃ?」
仁王は、猫を可愛がるように優しく私の顎ををなでる。…変な感じだ。
有無を言わせぬ仁王の視線に搦め捕られ、私はさっき思ったことをぽつぽつ話した。…めんどくさい女だと思われてしまうだろうか、そんな心配を抱えたまま。
「なぁ、なんで俺達の頭上には海じゃなくて空があるんじゃろ?」
『え…?』
「なんで雪の色を黒と言わんのじゃろ?」
『…常識、じゃない?』
仁王の意味不な質問になんと答えて良いかわからなかった。あまりに脈略がなさすぎるし…。海が空にあったら大変だし雪が黒だったら気持ち悪いだけだよね?…ん、あれ?なんか解釈がズレてる気がする。
「なんで真実が嘘で嘘が真実なんじゃろ?」
『……?』
「なんで始まりが終わりで始まりが終わりなんじゃろ?」
『仁王…?』
混乱する私を他所に、仁王は更によくわからない質問をなげかけてくる。
「なんで俺はお前が好きで嫌いなんじゃろ?」
『!』」
“嫌い”というフレーズに過敏に反応してしまう。…やっぱり、さっきみたいなことはめんどくさかったのかな…。
「変だと思わんか?この世界は矛盾だらけじゃ」
『そう……だね』
「…こら、そんな顔するんじゃなか」
そう言うと、仁王は優しく私を抱きしめてくれた。出来るだけ死角になるようなところからながめていたので、幸いファンクラブに目撃されることはなかった。
ハグしてくれたことが嬉しくて、私も仁王の胸に顔を寄せる。
『ねぇ…私のこと嫌いなの?』
「好いとうよ」
『…じゃあ、嫌いってどういう意味なの?』
「そうじゃな…、ひとりでいろいろ抱え込むところとか、無防備なところとか、可愛すぎる笑顔とか」
『………』
「そういうところが大嫌いで、大好きじゃ」
『……わかんないよ?』
「ククっ…そうじゃな。今、お前を抱きしめとるんは誰じゃ?」
『仁王』
「さっきまで、目で追っていた人は?」
『…仁王』
「それが分かれば十分じゃ。コートに立っていようが、お前の隣にいようが、俺は俺のままじゃ」
そうじゃろ?と言われて私は頷いた。
……何、馬鹿なこと考えてたんだろう私。仁王は仁王だ。それ以外の何者でもない。
…ちょっと、いつもと違う彼を見たから不安になった……、というか、やっぱ仁王ってすごいんだって思い知らされてへこんだっていう感じ。
「真実は、自分で見極めるんじゃ。たとえそれが嘘だとしても。嘘と見るか、本当と見るか……見方によって違う。本質は変わらんのに、な。背反した感情も同じじゃろ」
世界も人間も面白い、なんて言う珍しく饒舌な仁王の話に耳を傾けてみたが、相変わらずよくわからない話をする人だとか思ってしまった。私の理解力が足りないからなのかな…。さっきの話との繋がりも言葉の意味も全然理解出来ない。
『仁王がよくわからないことを考えているのはわかった』
「はっきり言うのぅ。確かに、理解し難いかもしれん」
たぶん、ほとんどの人が理解出来ないと思うけど。理解出来る人は柳生くん…と幸村くんと柳くんくらいじゃないかな。
……柳生くん、幸村くん、柳くん……。うらやましいな。
『仁王、好きだよ』
「ああ。俺も好きじゃ」
『うん。…だから、仁王のこと全部理解出来るようにする』
「出来るかの?理解したつもりが、間違っとるかもしれんよ」
『……いじわる』
軽く睨むと、仁王は私の大好きな笑顔をくれた。…睨んだのに、なんで笑うのさ。
「ちょっとずつ頑張りんしゃい」
そう言って優しく頭を撫でながら笑う仁王は、間違いなくいつもの仁王で。でもさっきコート上でキラキラしていた彼で。
一瞬、遠くに感じちゃったけどやっぱり大好きな変わった仁王だ。
…確かに、仁王を理解するのは難しいことかもしれないけど。
でも、そんな不思議でつかめないペテン師さんのことを、本当に知りたいと思った。まだまだ、知らないところがいっぱいある。
仁王を理解出来ない自分は嫌いだけど、理解しようとしている自分は好きだ。
て、あれ…?何意味不なこと考えてるんだろう私。変なの。
…いや、ちょっとわかったのかもしれない。
屈折した独特な彼の気持ち、
P気持ち*****
彼の気持ち=P気持ち…のつもりです。
なんだか自分でもよくわからない文になってしまいました…。P気持ち難しい。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
Luv Fes様に提出。