立海2
□インフェルノまであと数秒!
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『やだ!もう本当に嫌だよー!!』
部室内に、私の声が響く。
「落ち着いて下さいよ、名前先輩!」
「そうじゃ。うるさいぜよ」
『ゔー…無理ー』
「まだ言ってんの?決まったことだろ。大人しく受け入れろよ」
『…やだ!やだやだ!これから死と隣合わせの生活が始まると思うと…耐えられない!!』
「え?」
『ひっ…!』
幸村に睨まれると、私は大人しく黙るしかなかった。そして机に突っ伏す。…こんなの理不尽だ!
「くじ引きで決まったんだから仕方ないだろ」
『………』
実は今日、席替えがあったんだ。そしてあろうことか、魔王様と隣になってしまったんだ…!!
嗚呼…私の寿命は確実に短くなったよ!!
「俺と隣になって嫌がるなんて珍しい奴」
普通だと思うよ!
…と、心のなかでツッコミを入れる。実際につっこんだら後が怖いから黙っていることにする。
「おい、聞いてんの」
『………うん』
「………」
無言の重圧をひしひしと感じる。…怖いけど、それ以上言葉を発する元気もない。それくらいその席は憂鬱だ。
「…そんなに俺の隣が嫌なわけ?」
『……』
正直に頷いた。
「…へーえ、良い度胸だね。とりあえず正座しろ」
『え?』
「俺に謝れって言ってんだよ」
『ひっ…!』
あまりの恐さにあんなに重かった体が反射的に動く。何…!?何何急に!なにがそんなに気に入らなかったのですか!!
『………』
「謝罪の言葉は」
『…ごめんなさい』
「それだけ?」
『………』
そう言われて私は黙りこむしかなかった。
だってごめんなさい以外謝罪の言葉が思い付かなかったから。
てか、だからなんで私が謝らなければならないんだ!!理由を教えて下さい理由を!情報の開示を求めます。
「いつまで黙ってんだ。お前の口はなんのためにあるんだよ」
『…しゃべるため?』
「俺に謝るためだろ」
『えぇっ!?』
そうなの!?私は幸村に謝るだけのために口があるの!?そんな理不尽な!!
「はぁ…」
『ごめんなさい…』
幸村のため息があまりにもでかかったのでとりあえず謝っておく。
「…あーあ、気分悪っ」
『ごめんなさい』
うぅっ…これから毎日こんななのかな…。
「さっきからごめんなさいごめんなさいって…。なんなの?馬鹿なの?死ぬの?」
『ば、馬鹿だけど死なないですー…!!』
“死ぬの?”にあまりにも殺気をはらんでいたので咄嗟に否定する。
頭は怖いから下げたまま。
「……顔、あげなよ」
『いや、あの、顔向けなど恐れ多くて出来ません…!』
口調は優しいがこんなもんで許してくれる幸村じゃない。だって魔王様だもん。
特に理不尽な理由で怒っているときってたちが悪い。
「あげろって言ってんだろ」
がし、っという音と同時に頭に痛みがおとずれる。
『い゙い゙っ痛い痛いわかったわかった顔あげますから髪引っ張らないで!』
「わかればいいんだよ」
ぷちぷちぷちっ!
『い゙っ…!!ちょ、髪の毛抜けちゃったじゃん!!!』
「俺は手を離しただけ。絡みついてきた名前の髪が悪いんだろ」
『なっ…だって5本も抜けてるよ!!絶対わざとでしょっ!!』
「なんでお前の汚らわしい髪をわざと抜かなきゃいけないんだよ」
『え、そりゃもう黒魔術を使用するのでは?』
この際汚らわしいなんて言葉は無視にかぎる。
「ふふ…それならお望み通りしてやろうか」
『ひぃぃごめんなさいっ!!!』
「うるさいな。耳障りだから叫ぶなよ」
『かしこまりました!』
「喋るなって言わなかった?」
『叫ぶなよとは言われましたが』
「馬鹿か喋るなの聞き間違いだろ」
『いや、幸村の言い間違えじゃ』
「そのうるさい口ふさいでやろうか」
『え゙っ…!!』
ニコニコしながら幸村が近づいてくる。やだやだどうしようこれ私殺される!!
「……何顔赤くしてんだよ」
『…え?赤くなってる?』
私は自分の頬に手をあてる。……わかんないな。
そんなことをしているうちに幸村が私の顎をつかんだ。
……え、え、もしかして…口をふさいでやろうかって…
『///』
「もっと赤くなった」
『だって幸村が、口ふさいでやろうかって…!!』
「うっわ、キモ。キスでもされると思ったわけ?仁王、ガムテープ」
『ガムテープですかぁぁぁ!!!いやっいやっそれはやめて下さい本当に!!痛いんだよ!痛いんだよそれはがすの!!!』
「ずいぶん良い反応するね。過去に経験したことあるような口ぶりだな」
『他でもないあなたがやりましたよね!?』
「なんのこと?」
なんですとー!?!?この人過去の事実をなかったことにしようとしてますよ!
ちょ、マジふざけないで下さい!!ほんとこれだけはシャレになんないって!!
『幸村、お願いやめてっ』
「ふふっ…遺言はそれだけかい?」
『ゆ、遺言…!?』
「それ以上ないならガムテープつけるよ。優しい俺が遺言を言う猶予をやってんだ。ありがたく思いなよ」
正直全然ありがたくねー!!!
「……」
幸村が無言で見つめてくる。右手の人差し指で器用にくるくるガムテープを回しながら。
怖い。めちゃくちゃ怖い。
『……っ』
「ふふっ…」
どうにかガムテープをはられない方法を考えてみたけれど無駄だった。あーあ、またあんなに痛い思いをしなきゃならないんだ…。
やだな……。どうしたら機嫌直してくれるんだろう…。
「名前、」
名前を呼ばれていつの間にか下に向いていた視線を幸村に戻すと、満面の笑みを浮かべた幸村と目があった。
そして、
『……っえ、』
次の瞬間、なんと抱きしめられた。背中には幸村の腕とガムテープの感触。幸村の肩越しに目を丸くして驚いている赤也が見えた。
「………」
『………』
「………」
『………』
…ど、どどどどどーしよっ!!え、なんで私幸村に抱きしめられてんの!?もしかしてアレか!?絞め殺されるのか私は!
「蓮二、どうしよう」
「何がだ」
「こいつの目、見てみろよ」
そう言いながら、幸村が私から少し離れる。私の目が何だって言うんですか。
「…泣いているのか」
「ああ」
どうやら、恐怖のあまり知らぬ間に泣いていたようだ。
「なんかさ…怖がる名前がじわじわ目に涙を浮かべていくのを見ていたら、すっごく可愛く見えてきたんだよね」
『…え?』
「ふふっ…もっと泣いてよ名前」
『えぇぇ!?』
んな馬鹿な!!!
「ほら、早く。本当にガムテープで縛るよ」
『縛るの?』
「縛るよ」
『ひぃっ!』
「ふふっ…良いねぇ、その顔。俺の加虐心を刺激するんだよね」
『柳、どうしよっ!助けてっ!!』
「無理な話だな」
『赤也っ!』
「な、泣いてあげればいいんじゃないっスか」
『えぇ…!?に、仁王っ!!』
「黙って縛られんしゃい」
『いーやー!!!』
「痛いんだけど」
『え?』
そう言われ、思わず幸村を見上げる。そして、自分の足…、更に言えば足の裏辺りの感触の異変に気づく。
「お前の足、俺の足を踏んでるんだけど」
『いっ…ご、ごめんなさいぃぃ!!』
「うるせーな、至近距離で叫ぶなよ」
『はい、すみません…!』
「精市、落ち着け」
「無理だね。グーで殴ってパーで叩いてチョキで目玉潰してやりたいよ」
ご乱心…!!
「……そんなに嫌がんなよ」
『え?』
幸村がぽそっと何か言う。
「なんでもない。帰るよ」
『…は?』
「晩いから送ってやるって言ってるんだ」
『………』
何、今度は急になに!?どんな風のふきまわし!?
「大丈夫、下心しかないから」
『もう嫌だよ柳ー!!』
下心しかないってどうゆうことですか!
私はささっと柳の後ろに身をかくす。ここが一番安心だ。
「何やってんだよ、早くこいよ」
『やだっ!何されるかわかんないし!!柳と帰る』
「それはお断りだ」
『Σ( ̄□ ̄;)ガーン』
「ふっ…ざまあ。ほら、早くしろよ」
『やだやだ…!』
「精市、もっと優しく言ってやれ。苗字が怖がっているぞ」
『どんなに優しく言われても幸村とは帰らないよ』
「ひどいなー名前。安心して、優しく地獄にエスコートしてあげるから」
何を勘違いしてるのかなー。全然誘い文句になってないから!
「不満そうだね、名前。なら地獄じゃなくてあの世にしてあげるよ」
『変わんねー!!』
「そんなことないぞ、苗字。地獄の可能性が100%だったが、あの世になったことによって天国に逝くという可能性も生まれた」
『どっちにしろ死ぬのね』
絶望して下を向くと私の陰と誰かの陰が重なった。………案の定、幸村だった。
「本当に死にたいならいいけど?」
『わーい幸村と帰れるなんて幸せだなー!!!』
「ふふっ…だろ?明日からは隣の席なんだ。もっと幸せだよ」
……いや、不幸せの間違いだよね。
「大丈夫。絶対おとしてやるから」
『えっ何、地獄に…?』
「(精市も苦労するな)」
「(相変わらず名前は鈍感じゃのぅ。幸村も幸村じゃが)」
しばしの沈黙があった後、不機嫌そうな幸村に手を捕まれる。思わず体が大きくはねた。
インフェルノまであと数秒!
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朔様リクエスト、黒幸村でした…!
遅くなってしまって申し訳ありませんでしたm(__)m
甘要素をいれようとしたのですが無理でしたf^_^;てかイミフな話ですね…。
苦情は朔様のみ受け付けます。
リクエストありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。