立海

□1年先を、
1ページ/1ページ






ここ数ヶ月、名前の様子がおかしい。話しかけてもずっと目をふせているし、すぐに用があるからと言っていなくなってしまう

理由を聞いてもいつもと変わらないの一点張りで、全然何もわからない

お弁当も一緒に食べていたのに、今では全くそんなことはしない。学年が違うし部活も引退してしまったからただでさえ会えないのに、…なんで昼休みも一緒に過ごせなくなってしまったんだろうか…



この前なんて、部活がない日を知って一緒に帰ろうって誘ったら、断られたあげく友人たちと帰宅しているのを見た


………なんで、名前。なんでそんなに俺を避けるの…?俺のこと、嫌いになったのか…?

そんなことが脳裏から離れない。…まったく情けないなぁ……。名前のこととなると、どうも上手くいかない






「名前…」

そうつぶやいても、風がさぁっと通り抜けるだけで名前が来ることはない
朝、名前にここで待ってるってメールしたけど……やっぱり見てもらえなかったのかな。返信さえきていない

来てくれないのだろうか……。今日くらい、ちゃんと話をしたいのに…

だって今日は、卒業式だから。俺と名前がこの中学校で過ごせる最後の日
また同じ校舎で生活出来るのは、一年先になってしまう


卒業証書と、ボタンとネクタイのなくなってしまった制服をながめる
物思いにふけていると、どこからかふと話し声が聞こえた


なんとなく聞き覚えある声のような気がしてそこに行ってみると、名前の小さな背中と男の背中が並んで腰掛けていた




……何、してるんだろう?その男、誰だよ…………て、あれ……赤也だ

俺は2人の会話に耳を傾けた





「……でもさ、卒業って言っても来年会えるしな。校舎だってそんなに遠いわけでもないし」


『…うん』


「だからさ、…そう落ち込むなって」


『……うん』


「……俺だって、寂しいよ。部長がいなくなっちまうのはやっぱ」

………俺の話?


『部長はもうとっくに、赤也でしょ』


「…だな。あーあ、俺、部長とか出来んのかなー」


『……先輩方がぬけた穴はやっぱり大きいよね。…でも、私も頑張ってサポートするから』


「…サンキュ。それよりお前、その顔なんとかしろよ」


『…生れつきですが何か?』


「んなわけねーだろ。何でそんな不幸げで今にも泣きそうな顔して生まれてくんだよ」


『生まれたときはみんな泣くし』


「屁理屈」


『赤也に言われたくない』


「へいへい。部長に卒業おめでとうございますくらい言ったのかよ」


『ううん。それどころか会ってもいない。ここ数ヶ月、大して一緒の時間も過ごしてないし』


「はぁ!?マジかよっ……どうしたんだよ、別れんのかよ!?」

“別れる”
赤也からその言葉が放たれただけで、気が重くなった。……こんな形で別れ話を聞くことになるのか…変な気分だな




『……別れないよ』

!!…名前




「じゃあなんで、そんなに距離おいてたんだよ」


『……だって、会えなくなるから』


「…は?」


『学校で全然会えなくなっちゃうから、それに今から慣れなくちゃって思ったの…。来年、いきなり学校に精市先輩がいない生活なんて……たえられないよ』


「名前…」


『今も本当は、精市先輩から来てってメールが来たから、行かなくちゃいけないの』


「はぁ!?ならさっさと行けよっ」


『…メール、返信してないから知らないふりすることにする。………会ったら絶対泣いちゃうし、会ったら絶対、………離れ、……ったく…なくなっちゃ……うっ…』


「ちょ、泣いてんじゃねーかよ!!」


『だって、』



「そこで泣くくらいなら」

泣き始めてしまった名前を見て、思わず2人の会話に乱入してしまった


「俺のところに来なよ」



「『Σえ゙っ!?』」

さっと振り返った2人は、そろって目を赤くしていた




『せ、せーいち先輩…』


「部長、いつからそこにいたんスか!?」


「部長はもう、俺じゃないだろ?」


「あ……」


「名前、おいで」

そう言って軽く腕を広げると、彼女はためらうそぶりを見せた。だから俺は自分から近づいて、そっと名前を抱き寄せる



『せ、先輩っ…離して下さい!』


「…なんで?」


『だって…』


「俺だって、いきなり名前が学校にいない生活なんてたえられないよ」


『えっ……聞いてたんですか?』


「名前が無視したメールの通り、待ってたら話し声が聞こえてね。来ちゃったんだ」


『!………ごめんなさい』


「謝らないで。気づけなくてごめんね、名前が悩んでいること」

名前がぶんぶん首をふる
そんな彼女の頭に手をおくと、その様子を見ていた赤也まで泣きそうな顔をしていた




「赤也も、くる?」

少しおどけて片手だけ広げると、赤也は驚いて目を見開く



「な、何言ってんスか部長!!」


『……ダメ』

俺の腕の中で、名前が動く。そして彼女も俺を抱きしめかえしてくれた



「名前…?」


『精市先輩は………私のだもん…。赤也にも…渡さない』


「…っ!」

…………………可愛いなぁ…。赤也にやきもちなんてやく必要ないのに
俺は無意識に名前をさらに強く抱きしめた


「ごめんね赤也、俺は名前のだって」


「な、いいっスよ俺は別に!!失礼するっス!」

そう言って赤也は消え、名前と俺だけが残された




「名前、ついでに言うと名前も俺のだからね」


『えっ…』


「ふふっ…。俺と離れるのが寂しいと思ってくれるのは嬉しいけど」

……ふと、ここ数ヶ月の出来事が頭に浮かぶ。……俺も、寂しいな



「ひとりで突っ走らないでね。最近名前に避けられてて寂しかったんだから」


『嘘だ…!そんな余裕そうな顔で……』

余裕そう、か……。全然そんなことないんだけどね。名前の前ではそうありたかったから嬉しいな
君の前ではいつだって、強くて余裕のある、そんな頼れる人でありたかったから



………でも、今日は無理かな…





「…嘘なんかじゃないよ。寂しくて寂しくて、しょうがなかった。…いつ、別れ話をされるのか怖かったし」


『えっ…そんな、先輩をふったりなんてしませんよ』


「でも、あんな風にさけられたらそう思っちゃうよ」


『あ…』


「それにね、確かに名前が傍にいない生活なんて嫌だけど、どうせなら最後にいっぱい2人の時間を過ごしたかったな」

お互いがいないことに慣れるのも確かにひとつのてだけど、俺はいっぱい思い出を作りたかった



『……思いつきませんでした…。精市先輩がいなくなった後の生活しか考えられなくて…』


「それにさ、学校では会えなくても電話やメールも出来るだろ?」


『…はい』


「あとね…これ、あげる。……いや、もらってくれる?」

俺が差し出したのは…



『これ、制服のボタン…』


「名前のためにとっておいたんだよ」


『……いらないです』


「え?」


『だってこれを見る度、精市先輩のこと思い出して悲しくなっちゃいます…』


「…それなら好都合。これをいつも持って、俺のこと思い出してよ」


『……ずるい』


「?」


『いや、なんでもないです』


「ふふっ…。俺だって、名前のことずっと想ってるから大丈夫だよ」


『…っ///!先輩、キザ』


「全部本音だよ」

真っ赤になっている名前をながめて、愛しさと悲しさが入り混じった複雑な気持ちになる



「寂しいけど、もう会えないってわけじゃないんだから……ね?」

自分にも言い聞かせるようにそう言うと、名前は小さく頷いた



『精市先輩、……卒業おめでとうございます』


「うん、…ありがとう」











1年先を、夢にみて



(はい、ボタン)(…ありがとうございます)(大切にしてね)(はい…!)








********



今日(3/1)が私の学校の卒業式だったので、頑張りましたー^^
どーしても今日UPしたかったのです!

後から気づいたのですが、珍しく切…で糖度かなり低めでしたね…

いろいろありましたし…こんな変な小説しか書けませんが、これからもよろしくお願いいたしますm(__)m

…ちょっと、白くて弱気な幸村さんになってしまいましたねf^_^;
黒が好きな方すみませんでした…

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ