立海

□意地悪なキミは確信犯。
1ページ/1ページ





『なっ、イチゴみるくが…ないーっ!!!!!!』





自販機の前で呆然と立ち尽くす。



昼休み、とある魔の手から抜け出していつもの自販機でイチゴみるくを買おうとしていた私。


苦労してここまで来た…のに、売り切れってどういう事っ!?



…え、ちょ、なんでなんでなんでっ!?


他の奴は全部あるのに、なんでだっ!!!




『私のイチゴみるくー…』




ショックのあまり項垂れると、誰かにとんとんと肩を叩かれた感触がして。



顔を上げた。



「名前ー?」


『なくてもいいかなー、うん。』


「ふふっ、ちょっと待ちなよ。」


『いやだやだやだやだっ!!』



「逃がさないよ。」



私の前でイチゴみるくを見せつける様に振るのは紛れもなく、テニス界の貴公子…幸村 精市。



逃げようとした私のスカートを、ガシリと掴む。



『ちょっ、なんでスカート掴むんだっ!!』


「…へぇ。」


『何今のへぇ!!絶対見たでしょっ!!』


「俺は黒派だって、言ったのになぁ」


『変態!ここに変態がいるからーっ!!』


「やだな。人聞きの悪い」



そう言って困った様に眉を下げる幸村を睨む。



今日は逃げ切れたと思ってたのにっ…!



『昨日、私に思いっ切り水やり用のシャワー掛けて来たの誰!!』


「イラついてね」


『なにがっ!十分変態じゃんか!!あの時シャツだったんだよ!?』


「あぁ、透けた件?


『デリカシー勉強して来て頂けます?ここ食堂』


「そんなの計算外だよ。イラついたんだよ」


『だからそのイラついたってなに!!』


「は?なんでもいいだろ」



…とまぁ、こんな感じの事を毎日繰り返している訳で。



何故かこの男は私が気に食わないらしく、毎日の様に突っ掛かってくる。



『もうなんでもいいから!私は行くから!!いい!?』


「え、だめ」



可愛く【だめ】とか、本当止めてくれないかな!


私は、騙されないからね!!




『…何の、用…ですか』




両方黙っていても埒が明かないので、軽く身構えながら聞く。



「イチゴみるく、欲しいんだろう?これ、いる?」


『いらない!』


即答すると、「へぇ」と先ほどよりも黒い笑みを深くした。


だって、明らかに変だもん。


幸村、イチゴみるくなんて飲まないでしょ。



「そっか。じゃあ、ブン太にでもあげようかな」


『………』


「ふふっ、欲しいなら欲しいって素直に言えば?」


『……い、いらない!』


「へぇ?」


『………っ!』



ニコニコと、心底楽しそうに微笑む幸村。


その腕の先には、私の主食とも言って良いほどの好物、イチゴみるくがある。



「ふっ……餌を前にお預けされてるウサギみたい」


『うるさいなキミは!』


「俺はぎりぎりまで我慢させる派なんだよね」


『ドSの極みだっ……たたたたた痛い痛い痛い痛い!!!!!!』


「もう一度言ってみなよ。」


頭を鷲掴まれて、悲鳴に近い声を上げる。



ブラックスマイル過ぎるよ!本当やだよこの人!!



『幸村のイケメン!!』


「は?何それ」


『罵れる所がないからこう言うしかないんだっ!』


「はっ。バカじゃないの?」


『本当人を蔑んだ顔似合うよね。』



あぁ。顔が良いと、どんな表情も似合うのか。うん、納得



鼻で笑われても、慣れっこなんですけど。はっ



「まぁ、俺に欠点なんて無いけどね。」


『なにそれ。どこの黒子ナルシ?』


「冗談に決まってるだろ。跡部と一緒にされたくないよ」


『…あっ、一つあった!』


「なにが」


『女顔っ…「ふふっ、死にたい?」…あは』


誤魔化す様に笑うと、「なにそれ気持ち悪い。」と引き気味の顔で見てくる幸村。


………なんなの!!



「…で、結局欲しいの?いらないの?」


『それは…、だって、絶対条件付きだし』


「そうだね。」


『即答だよね!無償とか微塵もないよね!!』


「へぇ、良くわかってるじゃないか」


『なんだろう。全然嬉しくない』



いっそ、ダッシュして逃げ出そうかとも考えてみる。



………だめだ。


前にそうして、逃げ切れた試しがない。


それどころか、笑顔のまま猛スピードで走る幸村が超絶怖かったんだった。



じわり、と涙が浮かぶ。




「なに泣いてんの」


それを見た幸村が、驚いた様に目を丸くする。



『いや、別に…』



特に意味もなく、興奮したから出た涙なのに、あまりにも幸村が驚いた顔をしたから、少したじろぎながら急いで拭く。



……と、ボソッと幸村が何かを呟いた。



「泣きそうになりながら上目遣いとか、他の奴にしない方がいいよ」


『は?』


「別に?」


『え、なに。気になる』


「なに。俺がお前にブサイクだって言ったのが気になるの?」


『このやろう…』



掴みかかりたくなる衝動を、なんとか押さえる。


倍返しなんて物じゃないからね。うん



なんて思っていると、幸村が私の目の前にずいとイチゴみるくを出して笑う。



「さ、条件飲む?」


『まず条件がなにか聞くでしょ。なに突然選択迫ってんの』



そう言うと、きょとんとする幸村。



「え?そういう物?」


『え?本気で言ってる?』


「言ってるよね」


『常識知らないよね』


「は?」



『ごめんなさいでした』



最終的には絶対に言い負かすよね、この人!



……もう泣きたい…。



「言葉変だよ。頭も悪いの?お前」


『反論する気も起きないよ』


「認めざる終えなくて?」


『やだもう本当やだ…』


「はっ、滑稽だね」


『なにその勝ち誇った顔!』


「しょうがないから、条件教えてあげなくもないよ」


突然の言葉に、間抜けな声を上げる。



幸村って、案外良い人……。



「そうだな…。一週間俺の奴隷とか」


『そんな訳ないか。』


「なに言ってんの?」


『やだよそんなの!代償が大き過ぎる!!』


「そんな事ないよ。」


『それを真顔で言える幸村が恐ろしいよ!!』



ぜぇはぁと荒く息をしながら幸村を見る。



一瞬でも良い奴なんて思った私がバカだったよ。


……っていうか、そもそも条件を教えるのって普通の事じゃん。


もっと言えば普通条件なんて付けないよ。



なんだろう……だんだん幸村という名の、魔王様基準になってる。



「誰が魔王だって?」


『心を読まないで下さいお願いだから。』



「こんな条件も飲めないの?優しくしてやったのに」


『どこが優しいんですか』


永久奴隷でもいいけど?」


『誰か助けてー!』



そう叫ぶと、「止めてよ。俺、悪者みたいじゃないか」とわざとらしく困った顔をする。


え。



『え………悪者でしょう?』


「そんな事言うのはこの口かい?」


『いひゃいいひゃいいひゃい!!!』



思い切り頬をつねられる。



パワーSなんでしょ幸村。痛過ぎるでしょ。



離された所を痛い痛いと言いながら擦ってる、と。


はぁ…とため息を吐きながら、幸村が喋り出した。



「全く、しょうがないなぁ…。もう少し優しいのに変えてやるよ」


『えぇー…。なにその、私が駄々をこねたみたいな』


「…違わないだろ?」


『違いません』



怖い……この人超怖い……。



なんて思っていると、突然幸村がイチゴみるくのストローを取り出した。



『えっ……なにしてんの』


「うるさい。」



そのままストローを呑み口に差し込む幸村に慌てて声をかけると、そう言われて。



え、なに。ここまで来て気が変わったの?


ちょっ…、あんまりだよ!!今までの苦労はなんだったんだ!!!




とうとうイチゴみるくを飲み出した幸村に、抗議しようと口を開いた。




『ちょ、幸村っ……っん…!』









チュ…








リップ音がして。





目の前には、幸村。





開いた口から、イチゴみるくの味がした。




え、キス………?



突然の事に頭がついていかなくて、つぅ…と口からイチゴみるくが垂れた。




『……っ…は、』


数秒立った後に口を離されて。



悲鳴が聞こえる中、呆然と幸村を見つめる。





「お前、飲むの下手過ぎ」





そう言いながら、顎に垂れたイチゴみるくを拭う幸村が妙に色っぽい。



………じゃなくて。



『え、今、何して……え?』



混乱し過ぎて呂律が回らない中、必死に問いかける。



と、飄々とした顔で幸村が答える。



「口移し?」


『え、それは…今…キ、ス…』


「したね」



そう言って私に顔を近づけながらニヤリと笑った幸村は、完全な確信犯で。


理解した途端、赤くなる頬。



『え、は、ちょっ…』


「これと、俺の彼女になれば条件はちゃらにしてあげるよ」


『え………はっ?』



ぽんぽんと出される言葉に脳が追いつかなくて。



今幸村が言った言葉を理解した時には、





チュッ





二度目のリップ音が鳴った。






「ふふっ、好きだよ?名前」









意地悪なキミは確信犯。








(名前も俺が好きだよね?)
(えっ……なんで知って、え、えっ!?)
(…………ふふっ)



(幸村君、上手くいったかなー)
(いかないはずがないじゃろ?ブーちゃん)
(は!?てめっ、仁王!!)
(というより、上手くいってくれないと俺達がイチゴみるくを買い占めた甲斐がないだろう)
(好きな子ほど虐めたくなる典型じゃな)







*******



ゆ、幸村が素敵すぎますよね…!!ひろひろ様の書く黒幸村様がかっこよすぎて悶えますマジで

白幸村もいいけど私は黒派ですっ(笑)
こんな風に書けるようになりたいです…!!


素敵な夢ありがとうございましたー!!



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ