四天
□焦れるはちみつ
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『忍足くんは帰らなくていいの?』
さっきの場所でまだ立ったままの忍足くんに目をやる
「だ、大丈夫や。俺あてられてへんし」
『そっか…』
沈黙が流れる
考えたら、彼とは隣だけどあまり話したことがない
私は男子と積極的に話すようなタイプではないし、みんなが気を遣ってよく話しかけてくれるから、なんだかんだで話しそびれている
(何話せばいいんだろう…)
「あ、あんな…」
忍足くんも沈黙が気まずかったみたいで、俯きかげんで話しだす
「えーと…アレや」
『?』
よく見たら、忍足くんはまだ真っ赤な顔のまま
もしかしたら彼も具合が悪いのかな?
『忍足くん、大丈夫?顔赤いよ…具合悪いんじゃない?』
「だ、大丈夫やっ。そやっ苗字、体調は大丈夫か」
『ふふっ…さっきも言ったでしょ?大丈夫だよ。まだちょっと痛いけど』
そう言って私はお腹をさする
「腹か……なんか悪いもんでも食べたんか?」
『いや、えーと…』
なんて言えばいいんだろ…同意するのもなんか恥ずかしいかな
「腹痛は気をつけた方がええで?思わぬ病気の前ぶれだったりするんや!」
そう言って真剣に話す忍足くんは、本当に優しくて……心配性だ
「なんなら帰りに医者連れてったろか?」
『Σえっ!?…それはちょっと』
ただの生理痛だし……
「遠慮はいらんっちゅー話や!」
うわ…笑顔が輝いていますよ忍足くん
って見とれてる場合じゃなくて
『行かないから!本当に大丈夫』
「遠慮はほんまにいらんで?」
『その………生理痛…』
「へ?」
『ただの、生理痛だから…』
「///!!」
忍足くんの顔がみるみるうちに赤くなる
(そんなに赤くなられると、こっちも恥ずかしいよ)
私は自分のほっぺに思わず手をあてる
「えーと…その、ごめん///変なこと言わせて」
『だ、大丈夫。私がちゃんとごまかせば良かった』
「………」
『……』
再び、沈黙
なんとも言えない恥ずかしい空気が流れる
それなのにいてくれる忍足くん
「あんな…」
忍足くんは、私と目を合わせることなく話し出す
「俺、ずっと苗字の隣におってええか?」
『え?』
「その…新しい環境にまだ慣れないかもしれへんけど、なんかあったら助けたるから」
『忍足くん…』
気づいてくれてたのかな…まだ、慣れきってないこと
「きょ、今日みたいなのはどうにも出来へんけど…他んときは頼ってな?」
『ありがとう…』
忍足くんの優しさに、少し心が軽くなる
『本当に優しいね、忍足くんは』
「………」
忍足くんが、ゆっくりと瞬きをしてこちらを見つめる
「やっぱりな…苗字って天然や」
『え?』
忍足ははぁーっと言ってベッドの側にしゃがみ込む
「苗字には、頼ってほしい」
『うん。気を遣ってくれてありがとう。早く慣れるね』
忍足くんから、再び盛大なため息が漏れる
「天然もここまでくると酷いな…いや、はっきり言わない俺が悪いんか…」
ぶつぶつ話す忍足くんに、私はクエスチョンマークを浮かべることしか出来ない
「謙也さん、はっきり言わなあかんスわ」
「え゙?」
『わっ!』
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