山受けとか

□否、団子売りですから。
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魂平糖、という団子屋をご存知だろうか。


かぶき町の一角。

万事屋一行が、甘味屋の餡泥牝堕(あんどろめだ)との勝負に助太刀したあの団子屋だ。


それまでは寂れていた店も、天人の店に勝ったということで噂が噂を呼び、今では人気店に仲間入りしている。



流石に、人気店をオヤジさんと娘さんだけで切盛りしていくには厳しい。

そういうことで、俺、山崎退がこの店の売り子として働くことになったのだ。




服装は主人のこだわりか、はたまた好みか、私服では店に出させてもらえない。

元々髪も長く、中性的な顔立ちをしているためか、娘さんと同じ女物の着物を着てもあまり不自然じゃない。不本意だが。




しかし、だ。
女装して働くのは結構精神的にキツイ。

仕事柄、昔はよく女装しなければならなかったが、毎日ではなかった訳で。


今俺にできることは、男とバレないように取り繕うことだけだ。薄化粧をし、髪を下の方でまとめて、長い前髪は髪留めでとめている。

自分で言うのも難だが、そこそこの変装だと思う。

それも不本意ではあるが。



しかしまあ、今どき忍と知って尚、雇ってくれるような店はあまりないから良しとしよう。

始末屋なら喜んで遣ってくれるだろうが、人を殺めて儲けるような仕事は自分には向いていない。

とっくの昔、忍だった頃に懲りてしまった。



「今日は・・・風が気持ちいいですね。」


「ん?・・・ああ。そうだな。こんな日に食う団子は一味違う。」



常連で、この店の救世主らしい男、坂田銀時に言うと、穏やかな笑みで返された。



「退くん、今日の着物は桃色かい。」


「旦那ぁ、くん、て付けないでください。結構傷つきますから。」



彼は山崎の素性を知っている数少ない人間の一人だ。




「で、今日は団子を食いに来たんですか?」



遠まわしすぎて、人によっては不自然にも思える質問。
しかし銀時は、



「ちょっとな。最近また辻斬りが横行してるだろ?うちの眼鏡がやられてよぉ」


「新八くんが?!大丈夫なんですか?」



「得物を持っていなかったとはいえ、アイツもヤワじゃあねえからな。上手くかわして、左腕を少しだけだ。傷跡もすぐ消えるとさ。」



それを聞くと、ホッとした。
大事に至らなかったのなら、それでいいが、


「その情報ですか?」


「頼む。俺はお妙を静めるので手一杯だ。」



山崎は戦闘よりも情報収集に長けている。
知り合いの忍もいるだろうが、一番の適任は山崎だと判断したのだろう。





「わかりましたよ。万事屋さんには借りがありますからね。」


忍として生きるのを辞めた時。職が無くて困っていた山崎にこの店を紹介してくれたのは、他でもない万事屋さんだ。
(余談だが、かまっ娘倶楽部も紹介されて頗る焦ったりもした。)






「悪いな。」


「気にしないでくださいよ。あ、お客さん来た。じゃあ。」




いらっしゃいませ〜。と間延びした声で新たに来た客に接しつつ、今夜の予定を立てるのだった。





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