Short

□氷砂糖
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ほーら君はいっつもそうやって、
俺から視線奪ってくれちゃって。
試合集中できなくなったらどう責任とってくれんのさ。

ほんと、どうしようもないくらい。



可愛い俺のオヒメサマ。




******************




「お疲れ様っ!」




「おー!ありがと名前ちゃん!」



練習終わり、ボトルとタオルをいつも笑顔で渡してくれる名前ちゃんは俺ら秀徳バスケ部の唯一のマネージャー。
普段はほわほわしててちょっとでも目を離すとこけたりおっちょこちょいだけど、彼女なりに一生懸命やっているし、なにより見ていて癒される。
今日も可愛いなぁなんて眺めているとパコッと後ろから軽く叩かれる。
くるりと後ろを振り向けばそこには笑顔の宮地先輩が…。




「な、なんですかね宮地先輩…。」




「てめぇなぁ、いくら名前が可愛いからって練習手ェぬいたら轢くぞ、ついでに名前に手ェ出しても轢く。つーこんで木村、軽トラ貸して。」




「ほんとお前そればっかりだよなー…。」




「あっはは…。」




ある意味これはいつもの風景。
宮地先輩だけではなく、この部活の中で名前ちゃんを好きじゃないやつはいないと思う。
まぁ、例外はいるけど。
それが今この俺の目の前にいるエース様!




「何をしているのだよ高尾。今日の帰りも貴様が今朝じゃんけんで負けたのだからチャリをこがねば帰れぬだろう。」




「わかってますよ真ちゃーん…。」




というかこいつに恋愛なんて二文字似合わねぇし…というか恋する真ちゃんってどうなの…っぶ…やっべ、笑い…とまんね…っ!
そうすると可愛い名前ちゃんがひょこっと俺の前に顔を出す。




「大丈夫?あの、具合悪いわけじゃないの…か。」




俺が腹を抱えてうずくまっていたからだろうか、心配して駆けつけてくれたらしい。
そんな心配そうな顔も可愛い!というか俺だけにその顔を向けてくれるのが何よりも嬉しい!
俺今幸せだよ!真ちゃん!
ニヘラと笑っていると真ちゃんがはぁ、とため息をつく。





「やめておけ苗字、心配するだけ無駄だ。なぜならコイツの頭は生まれたときからおかしいのだから。」




「ちょっ、ひどくね真ちゃん!?」




少しずりおちたメガネをチャッと直す真ちゃんに苦笑いをこぼす。
…というかこの立ち位置どっかの海常の6番と似てね…?
そういう俺たちのやり取りをみたからだろうか、クスクスという可愛らしい笑い声が聞こえてきた。
それはもちろん、目の前にいる名前ちゃんからで…。




「やっぱり二人って仲良しなんだね!そういうのってなんだか羨ましいなぁ。」




うしろで腕を組んで彼女は俺たちにはにかんでみせた。
つ、つかなにそのはにかんだ顔!?は、反則だから!かわいすぎ…!
名前ちゃんに恋をしてから早半年以上が経とうとしている。
まぁ、圧倒的俺の一目惚れだったから入部当初から俺は名前ちゃんのことが好きで仕方がないんだけど。
んま、そんな俺の気持ちはいくら疎い真ちゃんでも気がついているわけで。
真ちゃんは何を思ったのか、ふ、と何かを考える仕草をしてからぽんっと手を打った。
まるで何かひらめいた、といいたいような。




「すまん高尾、俺は少々用事があったのだよ、ということで今日は先に帰っていてくれ。」



そんな言葉を残すと真ちゃんはスタスタと校舎の方へと歩いていく。
そしてクルリと振り返ったと思ったら、再びこちらに戻ってくる。



「あと危ないから苗字を送っていってやるのだよ、夜は何かと物騒だからな。」




そういうとまた真ちゃんは校舎の方へと歩き出した。
ポカンとする俺と名前ちゃんはどちらからともなく顔を見合わせる。
そして俺はようやく真ちゃんの行動を理解する。

…つまり、これは俺と名前ちゃんを一緒に帰らせるために演技ってこと、だろ?
ってか…真ちゃん演技下手すぎっしょ…!手をポンッって…!ぽんって…!
クッククと笑いをこらえると名前ちゃんは不思議な顔をしてこちらを見る。
まぁ、せっかく真ちゃんが作ってくれたチャンスなんだ。





「じゃあ、送るよ名前ちゃん。」




無駄にするわけにはいかないだろ?

俺がニッと笑いかけると、ほんのり顔を赤く染めた彼女が笑顔でこちらを見てくれた。



「じゃあ、お願いします!」




*****************



こうして二人っきりで帰るっていうのは初めてかもしれない。
意外とこういうのって緊張するんだなぁ、と汗ばむ手をズボンにこすりつける。




「高尾くんって、いつからバスケ始めたの?」



何か話題振った方がいいかなぁ、って思った時に彼女が俺に話しかけてきてくれた。




「んー、中学の時からかな、気づいたらのめり込んでたっつーか。」




ま、みんなそんなもんだろ?とヘラッと笑いかけてから頭の後ろで腕を組む。
空を見上げれば綺麗な星空が広がっていた。
そんな俺を見た彼女はクスリと笑った。



「へぇー、やっぱりバスケ好きなんだねぇ。」




「へ?なんで?」




「だっていっつも練習の時、高尾くんすっごく楽しそうな顔してるから。」




それからとんでもない爆弾発言を落としてくれた。
『いっつも練習の時、高尾くんすっごく楽しそうな顔してるから』…?
…それって、…あのつまり…。




「あの、さ、俺のうぬぼれじゃなきゃいいんだけど…それっていっつも俺見てくれてるってこと?」




俺の言葉でハッとしたのか、彼女はカァアッと顔を真っ赤に染めてうつむく。
その反応を見てなんだか俺まで恥ずかしくなってきたんだけど…。
でもここで決めなきゃ…やっぱり男じゃないよなぁ…あと真ちゃんにも悪い。
彼女は立ち止まってうつむいた顔をパッとあげる。そして顔を真っ赤にしながらも俺に何かを伝えなきゃいけないと思ったのか必死に口を動かし始めた。



「そ、う、だよ…。いっつも高尾くん見てたよ…。高尾くんって優しいし、かっこいいし、気づいたら目で追ってたっていうか、そのつまり…私は高尾くんが…。」




「ストップ。」




焦った彼女が口走ろうとした言葉を彼女の口を俺が手で覆うことで止めさせる。
宮地先輩たちには悪いけど。
お姫様は俺がもらっちゃっても、いいよね?
俺は彼女の目の前に立ち、ぐいっと名前ちゃんの腕を引っ張る。
カクンッと体制を崩した彼女の体を俺の体で受け止めて、そして包み込むように優しく抱きしめる。




「その先は、俺がいってもいい?」




何を俺が言おうとしているのか、先程の話の続きから感じ取ったのか、彼女は震えながらもコクリと頷いた。
今は冬、抱き合っていてもお互い少々寒い。
白い息が出るまでとはいかないが、彼女の体温をもっと感じたくて俺は少し名前ちゃんを抱きしめる腕の力を強めた。




「俺も、




俺も名前のことが好きだ。」



その言葉を聞いて肩を震わせ始めた彼女の背中をぽんぽんと俺は叩いてやる。
きっとこの先も幸せにしてみせるから、誰にも、こんなかわいい姫さん渡してやーんね!

あっ、あとで真ちゃんに連絡しとかねーとな。




「んじゃ、一緒に帰りますか!」




先ほど、体育館からここまできた俺らの関係とはもうすでに違う関係。




「うんっ!」




彼女の小さい手を取り、俺たちは恋人として帰路を辿った。




「大好きだよ、名前。」

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