ブルーすかい。

□そして影は言った
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「青峰くん、笑ってましたよね…。」





やはり彼が切り出したのは青峰くんの話だった。
というかあいつも周りでこんなに思われてるんだからちったぁ気がつけよって話だよね…。
黒子くんは自嘲気味に笑ってから私の方を見る。





「僕、桃井さんと約束していたんです。
 青峰くんがまた笑ってバスケをする姿を見せるって…。」




話している彼の顔は真剣そのものだった。
というか、彼自身冗談苦手って言ってたから黒子くんの口から冗談が出るのはほとんどないのだろうが。






「だけど、その約束を果たしたのは僕じゃなくて…。」





そこでふいに黒子くんは目を泳がす。
さつきと約束をしたということもあるのだろうが、心のどこかで信じていたのだろう。
彼の影である自分がまたいつか青峰くんが笑顔でプレーをするようにできると。
かつて相棒だった自分が、という気持ちがあったに違いない。
そのポジションをなんなく私が奪ってしまったのだ、彼が悔しいと思うのも無理はない。
黒子くんはしばらく泳がせていた瞳をまぶたで一回覆ってから、次に開いた時にはしっかりと私を見ていた。





「彼を笑顔にできたのは松木さん、貴女だった。」





黒子くんの言葉に同調するようにザワッと一瞬風が強くなった。
そんな彼を見ていると胸の奥が苦しくなってくる。…どれほど悔しかったのか、顔を見れば嫌でもわかった。
いつもポーカーフェイスの彼が今は…今は、今にも泣きそうなくらいくしゃくしゃに顔を歪めていた。
でもその中でも必死に笑顔を作り出そうとするから余計に切なさが増した。





「すみません…こんな顔、するつもりじゃなかったんですけど…。」





そういって彼はその顔を隠すようにうつむく。
膝の上に置かれた握りこぶしはギュッときつく握られていて、力が入りすぎて少し震えていた。
そんな彼を見て、思わず私は立ち上がって彼を抱きしめていた。
いつもは大人びて見えていても、腐っても彼らはまだ中学二年生だ。
私から見たらまだまだ子供でしかない。
そんな中で彼らはこんなにも友達を思って苦しんでいた。
こりゃ…あとで青峰くん叱ってやらないとなーって思いながら黒子くんの頭を撫でる。
拒否られるかなー、と思ったけど案外彼は大人しく私の胸の中に収まり、頭をなでられていた。
そして恐る恐ると言ったらわかるだろうか、黒子くんはそろりと私の腰に腕を回しぎゅっと抱きついてきた。






「すみません…しばらく、こうしていても…いいですか…?」





やはり彼らはまだまだ子供だ。





「うん、落ち着くまでこうしてるといいよ。」






その言葉を聞いて安心したのか、肩を少し震わせた彼は小さく嗚咽をこぼした。
今日はよくみんなに泣きつかれる日だなぁ、なんて思いながら空を見る。
こうしてみていると案外さつきと黒子っちってなんだか似てるなって思った。
青峰くんを大切に思ってずっと心配していたところや、案外泣き虫なところや、人に頼るのが苦手なところとか。
そんな二人がいつかくっついたらいいなって思ったり。


結局、黒子くんは5分もそうしていると落ち着いたらしく、私からゆっくりと体を離した。






「松木さん、ありがとうございました。…なんだかすみません、結局休憩時間一杯付き合わせてしまって…。」






「そんなのいいの!ほら!みんな待ってるからいっておいで!」





休憩時間、結局さつきのところに行けなかったが、彼女なら大丈夫だろう。
そして私の体から離れた黒子くんの顔のすっきりした顔を見て少々安堵する。
私がどれだけみんなの役に立てるかわからないけど、こうして少しずつでも彼らを励ますことができたらいいな。
黒子くんはゆっくりと体育館へと向かっていったのだが、ふいにクルリと向きを変えて私の方へと体を向けた。





「あの松木さん。」





私が頭の上にハテナマークを浮かべていると彼は言葉を続けた。





「青峰くんのこと、怒らないであげてくださいね。」





そう言い残して彼は去っていった。
どうやら私が青峰くんを叱ろうとしていたことは彼にはお見通しだったらしい。
まったく、彼は隅に置けないやつだ、と軽くため息。
そして風にはためくビブスを見てから私も体育館へと向かった。
…休憩時間終わっちゃったけどまだ仕事あるかな…?
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