ブルーすかい。

□男前の名は伊達じゃない
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気がつけば私は寝てしまっていたようだ。
確か病院にいて、麻美と話して…そっから何してたんだっけ?
気がついたら寝てたみたいな、そんなに疲れてたのかな私。




「奈々…!?」



誰かが私を呼ぶ声がする。
寝起きでかすむ視界で必死にあたりを見回してみるがもう夜なのか薄暗くてよくわからない。
だが何となく、桃色の髪の毛の人物であることはわかった。

…桃色?




「奈々!?ねぇ奈々なの!?」



その人物は私の元へとかけてきて、ガッと私の肩をつかんだ。
至近距離で見ればどこからどうみてもそれはさつきの顔だった。
今にも泣き出しそうな顔をしている。
しかたないなぁと涙をぬぐってやればそれを皮切りにさつきはそのきれいな瞳いっぱいに浮かべた涙をぽろぽろとこぼし始めた。
そして私を力一杯抱きしめてきた。




「ほんと…心配したんだから…っ!どこいってたのよ…っ!」




女の子だからそんなに力は入らないけれど、それでもこの圧迫感がとても心地よかった。
…でもなんで私ここに?
というかこの世界の私は消えてたんじゃなかったっけ…?




「あのね、答えられる限りでいいの。
 見てた私も信じられないんだけど、こう、奈々を昨日ここの病室に運んで、そのあと部活戻って…ってこの話はミドリンに聞いたよね。
 そして荷物があるからって今日私が病室に取りに来たの。
 そしたら奈々の姿があって、でも実体じゃなかったのよ、こうぼんやりしてたというか、触ってもすり抜けちゃうし。」



肩をすくめていう彼女は、それを目の前にしながら信じられないといった。
まぁ普通の人間の感性ならば当然のことだろう。




「そしてしばらく不思議で見てたらだんだんそのぼんやりしていたのがはっきりとしてきて、確実に実体になってから奈々が目を覚ましたんだよ。」



そしてさつきは先ほどまでのたんたんとした話し方から検討もつかないくらい、泣き出しそうな顔になった。
心配になって頭をなでてやると、さつきはほほえんでこちらを見てくれた。




「あのね、奈々を疑うわけじゃないの、でもあの、やっぱりこういうの見ちゃうとなんかなぁって、うやむやにするの私的にあんまり得意というか好きじゃないから。
 奈々、あなたは一体何者なの?」



スッと力のこもった強い瞳。
でもそれは嫌悪感だとかじゃなくてただ単に私を信じているという確かな目。
別にさつきたちをだましていたわけではない。
というか自分の中でも自分が置かれていた状況が先ほどまでわかっていなかった。
でも元の世界に戻って、親友と話して、ちょっとだけ心の整理がついた。
そしてこっちにもう一度くることができたらみんなに話そうと思っていた。
だから私はもう一度、麻美にこの世界でのすてきな4日間の生活を話したときのように決意をした。





「さつき、話すよ、全部話す。
 だから…ここにみんなを呼んでくれる?」




私の決意のこもった言葉に、さつきは力強くうなずくと、病室から出て携帯でみんなに連絡を取りに行った。
さて、ここからがちょっとした正念場である。
みんなにうまく伝えられるかどうかわからないけど、それでも、がんばらなくっちゃ。
そして窓の外を見る、元の世界の私は東京にはいなかったから窓の外の景色は全く違ったが、本来の東京とは同じ景色なのだろうか?
というかそもそも、本来の東京のこの場所にはこの病院と同じ病院があるのだろうか?
しばらくそうしてぼうっと夜に近づく空を、景色を眺めているとガラリと病室が開く音がする。
戻ってきたさつきの背後にはなぜだかすでにカラフルな頭が6色揃っていた。





「最後に確認に来ようと思っていたら皆がついてきたのだよ。」




「もしかしたら奈々ちゃん帰ってきてるかもしれないって思ったら足が勝手に動いてたんスよぅ…。」




「まぁその結果、本当に帰って来たっぽいですけどね。」




「はぁー…ったくよー、お前は人に迷惑ばっかかけやがって…。」





「とりあえずお帰り、というべきかなまずは。」





「奈々ちんお菓子食べるー?」





口々に吐き出されるセリフ。
声、顔を見た瞬間、一気に目の奥が熱くなった。
突然いなくなった私を受け止めてくれる彼らの言葉が、本当に嬉しくて。
でもここで泣くわけには行かない。
グッとなみだをこらえる。
皆の顔を見るとさきほどさつきが見た現象を見たわけではないため、本当に心の底から心配している感じ。
でも赤司くんはさつきから聞いたのかどうなのか、それとも彼は最初からわかっていたのか知らないけれど、少し眉をしかめていた。
…というか彼のカンの鋭さっていうか、本当に侮れないと思う…会社でも経営したらどうかな…きっとすぐに上場企業になれると思うんだけど…。
ガヤガヤとする病室内はそれはそれは温かい空気に包まれていて、どこか胸をなでおろす。
もしかしたらこっちに戻ってきた瞬間にみんなに違うものを見る目で見られるんじゃないかななんて心のどこかで思っていたから。
だけど、やっぱりみんなに私のことをちゃんとわかってもらいたい。
…で、でもこの空気で話し始めるのはちょっと…というか話し始めたとしても「は?ごめ、聞こえなかったからもういっかい言ってくんね?」とか青峰くんに言われそう辛い。
そんな私の心情を察したのか赤司くんが騒いでいる皆の間に立ち、口元で人差し指を立てた。
…なにその幼稚園児に対する先生みたいなジェスチャー!!!!
可愛い!!!!!赤司くん可愛い!!!!
ちょっと興奮してしまったが赤司くんのおかげで彼らは口を閉じ、そして私の方へと向き合ってくれた。
さつきには先ほど皆が来てから話すと伝えてあったので近くにあった椅子に座りすでに聞く体制に入っていた。




「お前たち、どうやら奈々から俺たちに大切な話しがあるようだ。
 ちょっと聞いてみよう。面白そうだ。」




おもしろがるのはどうかと思うよ赤司くん…!
でもそんな彼の配慮のおかげで話しやすい空気にはなった。
赤司くんの言葉に皆の顔がだんだん真剣なものになっていく。
…それほどまで深刻な話しっていうわけでもないんだけど…でもどうやったらわかりやすく説明できるかな…。



「ごめんね、赤司くんありがとう。
 あのね皆、私、みんなに言わなきゃいけないことがあるんだ。」





そう、言って切り出した。
うまく説明できるかはわからない。
でもみんなに私のことを知ってもらいたい。





「あの、信じられないかもしれないんだけど。
 私、この世界の人間じゃないの。」
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