ブルーすかい。

□世界は変わる
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「そんで?奈々は向こうに戻りたいの?いや戻りたいよね、黄瀬くんに告白されてるんだもんね、おいおいおい〜しかもなんで若返っててしかも容姿まで変わっちゃってんだよ〜しかも絵見る限りめちゃくちゃ可愛いじゃんかよぉお!!!」



一方的に言葉をまくし立てるのは麻美の昔からの癖だ。
まぁきっぱり言ってくれる麻美の性格は一緒にいてとても楽なのだ、私にとっては。
ダンダンッと近くにあった机をたたき、足をバタバタさせる麻美がまさか黄瀬大好きヲタなんぞ誰も信じるわけがない。




「というか青峰くんも忘れてるから…。」




「なーにーが青峰くんじゃあああい!お前青峰のこと『大輝』って軽々しく呼び捨てしとったやないかー!!!」




「ご、ごめんて…。」




麻美に説明するにいたってわかりやすいように図を使って説明した。
人に見せて何が何だかわかる程度の絵はかけるからとりあえず夢の中での私の絵、そして家の中の見取り図、学校の見取り図を書いてそれから彼らの絵を交えながら、説明した。





「というか黄瀬くんと部屋が隣っていう時点でもう私吐血して死ぬって!」





「わ、わぁ…麻美ならマジで死にかねない…。」





あーもう奈々ずるいぃいいっ!と頭をがっしがっしと掻き始める麻美の行為をやめさせて彼女の綺麗な髪の毛を私は整え始める。
こういうのも中学校以来いつものことなので麻美も大人しくしている。





「でもさー、メールも見させてもらったけど、本当、どういうことなんだろうね…?
 実際にこうしてメールきちゃったら信じるしかないじゃんね?
 というかこれ込みでもしかして奈々の夢とか?」




「やめろよ…こんがらがりそう。」





否、もう既に私の頭の中ではいろいろとこんがらがっている。
20年間生活してきたこの日常がもしかしたら夢なのではないか、というか向こうで過ごした4日間があまりにも充実しすぎていてどちらが現実なのか全く見当がつかなくなっていた。
もちろん向こうにいる間はこちらに連絡を取ることすら不可能だったため、もし再び向こうに行くことになればこちらの世界を捨てる覚悟で行かなければならないだろう。
…というかなぜ向こうの私は姿を消してしまったのだろうか。
こちらの世界の私は私が向こうにいる間もずっとこの部屋にいたらしいし、消えたとかいうわけでもないと思う。

夢が覚めたから、向こうに存在していた体が消滅した?

でも夢だったらこのメールの説明はどう付ければいいのか。

考えれば考えるほどわからなくなる。

夢と現実がリンクするなんてそんな非科学的なことがありえるのだろうか。






「もしかして神様が日頃頑張ってる奈々のためにご褒美を用意してくれたとかー…。」





「考え方がいつになっても可愛いなぁ麻美は。」




「な、なんだかバカにされた気分なんだけどー!?」




せっかく考えてくれた親友を馬鹿にしたわけではないが頭をわっしわっしとなでてやる。
うむ、やっぱり撫でられるより撫でるほうがしっくりくるな。
でもなんかその麻美の意見を信じたい気もするんだよな〜。
科学的に証明されるとかいうより、実際、神様の仕業です〜っていった方が何も考えずに済む。

私が向こうに行った瞬間に合ったこと。
私がこっちに帰って来た瞬間に合ったこと。

考え合わせれば共通点はひとつしかない。
こちらの私はまず交通事故にあったことで気を失い、向こうにとび、そして向こうの私は灰崎とかいう子に首を絞められて気を失った。

…というか結構えげつないことされてるなぁ私。

というか地図アプリで帝光中がどの辺にあるか調べておけば良かったなー…。
生憎私は東京に住んでいない。
だから、むこうの地形とか良くわかんないし…というかそっちの方が良かったかもしれない。
もし、帝光中のある場所が自分の良く知る場所でこうして現実世界に帰ってきた時の目の前に突きつけられる衝撃はかなり大きいと思う。
その分、私は幸せだった。

そういえば話は飛ぶけれど、最後私が灰崎くんに襲われた時に助けてくれたのってやっぱり…青峰くんなのかなぁ…?
気を失う寸前に聞こえた私を呼ぶ声も、視界を遮ったあの青い髪の毛も、きっと、きっと全部彼なのだろう。

というか私別に助けも呼んでないし、彼の目の届く範囲にいたわけでもない。
なぜ私があそこにいたことがわかったのか。
正直、嬉しかった。
私の名前を呼んでくれたのも、襲われていることがわかってすぐに走ってかけつけてくれたことも、全部、全部ヒーローみたいでかっこよかったなぁって。
こうして現実に戻ってくると、すべて遠い昔のことのような気がしてちょっと寂しかった。
目をつむれば、もう一度彼らに会えるんじゃないかなーって思ったり。
そうやって考えてみるとやっぱり私青峰くんのこと好きなんだなーって、思えてしまったり。
相手は中学生だけど、それでも向こうの私も中学生なわけだし、年齢的には遜色はない。
遜色があるのは学力だけだ!
なんかズルして赤司くんに勝負挑んだからそのことめっちゃ謝りたい!

もしもう一度向こうに行くことがあったらみんなにこのことを話してみよう。
信じてくれるかどうかわからないし、突然消えた私を許してくれるかどうかもわからない。
そういえば今は当たり前のことで忘れていたが、向こうにいるときも周りのみんながまだガラゲーだったのに対して私の携帯はスマホのままだった。
しかも今私が使ってる奴。
どこかで繋がってるんじゃないかなって、とうかこいつが向こうとの唯一の架け橋なんだなって、少し嬉しくもあった。
だから手にしていた携帯をそっと抱きしめてみたりして。

それを見ていた麻美は儚げに微笑み、そして席から立ち上がった。




「さて、と。
 そろそろ私行くわ!なんかあったら教えてよ!奈々も一人になっていろいろ頭の中整理したいだろうし、私も今ケーキバイキングがタイムセール中だから行ってくる!」





「麻美にとっては後者の方が理由としてはでかいでしょうに…。」





「あ、あはー…ば、バレた?」




まったくどうしようもないくらい優しくて、理解があったと思えば、すぐにこうなるもんなぁ、と苦笑いをこぼす。
でも彼女のおかげでいくらか救われたのは事実だ。
こんな体験、通常の人に話したところで頭がおかしくなったんじゃないか、とか想像力が豊かなんだね、と苦笑いされるかの二択だと思う。
それを真摯に受け止め、そして理解し、励ましてくれる麻美。
冗談を言って笑わせてくれたりね、本当に彼女には感謝している。





「今度ケーキおごるよ。」




「あったりまえー!じゃあお大事にな!奈々!」




ガラリとドアを開けてその隙間に体をすべり込ませると麻美は敬礼のポーズをとった。
真似をして私もポーズを決めて笑顔で見送る。





「あ、そうだ。」




ドアが閉まりそうになる直前、麻美が再びドアを開き、こちらにひょっこりと顔を出す。





「もし向こうに戻ることがあったなら、その前に私に連絡してね!」





いきなり離れて永遠の別れーとか嫌だから!と頬を膨らます彼女は本当に可愛い。
私はわかってるよ、という意味で手を上げると、彼女も小さく手を振ってくれた。
そして扉はしまった。


一人の病室。
ふ、とベッドのとなりにバスケットボールがあることに気がつく。
よくよく見ればいろいろなメッセージ。
中学の時のバスケ部の同世代の人たちからのメッセジが書かれていた。
大体が交通事故で私を心配している文面と早く元気になれよの文。
それを見つめていたらとても中学の頃が懐かしくなった。
ベッドに寝転がり、ぽーんぽーんと天井に向かってボールを投げる。
シュートフォームを確認したりしながら何回も何回も。

そして何十回とやったところでその行為をやめる。
そしてもう一度目をつむった。
思い出されるのはあのバスケットコートとカラフルな頭のやつら。
バッシュのスキール音とボールをつく音。
ビブスに染み付いた汗の臭いや女子更衣室。
どれも、鮮明に覚えていた。
これが現実でなくてなんだというのだ。

息を吸う。吐く。吸う。吐く。





「待ってろよ…帝光…!」




そして私は必ず向こうの世界へ戻ると決意した。
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