ブルーすかい。

□好敵手
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シン…とする空間。
黄瀬くんはなんだかとってもやりきった顔のご様子。
そしてそのやりきった黄瀬くんを前に何も言えない青峰くん。
流石にかわいそうになって青峰くんのところへ駆け寄ろうとするけれど、黄瀬くんがそれを許すはずもなく、私を離してくれなかった。




「ちょっ、黄瀬くん、離してっ!」




「なんでっスか!嫌っスよ!」




ああ言えばこう言う!
昔のくせでガリガリと頭を掻けばギッと黄瀬くんを睨む。
ヒッと一瞬で涙目になる黄瀬くんにもう一度離せというと、おずおずと腕の力を緩めてくれる。
その瞬間に私は彼の腕から逃れ、青峰くんの元へと走った。
普段の彼ならばこのくらいでへこたれないかもしれないが、万が一ということもある。
というか恋愛ごとこの子結構うぶそう…、そっと手を伸ばして頭を撫でようとするとその伸ばした腕を青峰くんに絡め取られ、グイッと引き寄せられる。
一瞬のできごとで何がなんだか分からず、一瞬後やっと抱きしめられてることがわかった。
それでもなぜ抱きしめられるのか分からず私の頭の中はあいも変わらずはてなマークでいっぱいなのだが。




「そうだよなぁ…なんでこんなに慎重だったんだろうなぁ、俺。」




ボソリとつぶやかれた彼の言葉には自嘲と弱気な心が混ざっていた。
少し不安になって彼の顔を覗き込むと、「大丈夫だ」と頭を撫でられてしまった。
まぁ一応ここで確認のために言っておくけど!?私!20歳ですからね!?
ムードぶち壊しなのわかってますよ!これ見てるあなたはなんでこんなところでそんなムードぶち壊し要素もってくんのって思うでしょ!?
おばさんにもいろいろあるのよ!!!
ただでさえ中学生相手にいろいろと手こずってるのよ!?
ちょっとそれは大人として恥ずかしいのよ!フンッ!
と、心の中で会話をしてみるが…。
気がつけば体は解放され、青峰くんの体が私をかばうように前へ一歩動いた。
黄瀬くんは先程の青峰くんの雰囲気と違うと気がついたのか私が抱きしめられたことによって少しムッとしていたようだが、言葉を聞こうと互いに目を合わせたようだ。





「確かに、俺は悠長に構えてた。」




「その感じが見ててイライラしてたんスけどね。」




「でもそれは俺の気持ちが中途半端だったわけじゃねぇ。」




青峰くんが目の前にいるおかげで彼らは今どんな顔をして話し合っているのかわからないが、かなり真剣な顔をしているに違いない。
…あ、違うよ?これ伏線とかじゃないからね?
一応真剣に解説してるからね?




「怖かったんだよ、もし気持ち伝えたとして、もし断られたとして、そのあとどんな顔して会ったらいいかなんて俺には分かんねぇんだよ。」




「…アンタにしては随分弱気っスね。」




まー、青峰っちなんてただエロいだけのピュアボーイっスからねー、と黄瀬くんはそっぽを向きながら言う。
…それ一番タチ悪いじゃねぇか。

まぁ、今のではっきりしちゃったけど、この二人は私のことが好き…と。





「だからあえて、気持ち伝えようなんて思ってねぇよ。」




常に積極的な黄瀬くんと、冷静にいくもの成功を確実にする青峰くん。
恋愛までもバスケのスタイルとほぼ変わらないってどういうことよ…。
ま、はっきりいっちゃうと私は彼らに恋愛感情なんてまだこれっぽっちももってない。
というか今の私にはこの世界に来れたことの喜びの方が大きいのだ。
それで精一杯なんだよね、はっきり言っちゃうと。
漫画の世界に飛んでみたいなんて常日頃考えて、そしたらいつの間にか本当に飛んじゃって、それが自分の大好きな世界で。
だから今のこの関係をどうかしようだなんて思ってない。





「はぁー…やっぱアンタには敵わないっスわ。」




降参、とでも言うように黄瀬くんは両手をあげてため息をつく。
まぁ、でもある意味やろうとしてることは一緒なんだよね。
青峰くんに憧れた黄瀬くん。
そんな黄瀬くんのお手本となる青峰くん。
まさか恋愛までもそうやって重なるとはね。
黄瀬くんの怒りはどこへやら、スッと彼は右手を青峰くんに差し出す。
青峰くんはわけがわからなかったっぽいが、とりあえずその差し出された右手を取る。
そんで黄瀬くんはニヤリと笑うと、青峰くんにズイッと近づいた。





「やっぱり青峰っちは好敵手っス、俺、ぜってー負けねっスから。」




「…はぁ?」




一方の青峰くんは訳がわかっていないらしく、コテンと首をかしげる。
い、いや、君がそれやっても可愛くないからというか著しく怖いから!?
その一方、先ほどのちょっと恥ずかしい言葉をはいた黄瀬くんは顔を真っ赤にしてどうやらマジで恥ずかしそう。
お互いにしっかりシェイクハンドしてた手を黄瀬くんは無理やり離し、ズビシッと青峰くんを指差した。




「だから!!!!奈々ちゃんは渡さねぇっスからね!!!!!」




「…あー。」




そう言われてやっと意味がわかったのか、青峰くんはポンッと手を叩く。
…だ、だからその思いついた!みたいな動作やっても…な、なんかおもしろ…っ!その間抜け顔しながらその動作してる青峰くんおもしろ…っ!
口を抑えて笑いをこらえてると、いきなり前に押し出される感覚を体が襲った。
そして自分の腰に添えられる大きな手。
そしてそして次の瞬間に私のほっぺに伝わる何やら温かくてやわらかい感触。





「っあああああああああああああ!?!?」




「俺も手ぇ抜く気ねぇから、安心しろ。」




何が起こったのか、その時はわからなくて、ただただ目の前で繰り広げられる喧嘩のような、子供の言い争いをずっと見守っていた。

…あぁ、私、青峰くんにキスされたのか。しかもほっぺちゅー。
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