ブルーすかい。

□好敵手
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とりあえず私たちは、屋上からお昼を食べるために食堂へと向かう。
食堂に行くとまだずいぶんと生徒たちで賑わっていた。
これから部活のところ、もしくはこれから家に帰るのだがおなかがすいてしまってここで食事を済ませようという生徒たちだろう。
私と青峰くんはササッとご飯を済ませてから、体育館へと向かった。

体育館へ向かうと、青峰くんのところにのっそのっそと大きな体が近づいてくる。
紛れもなくそれは紫原くんなのだが。
私と青峰君は不思議に思い互いに顔を見合わせる。
不機嫌なのは未だ健在らしく唇を尖らせて眉間にしわを寄せている。
見るからに不機嫌な子供の表情だ。




「峰ちん、一応謝るけど、赤ちんに言われたから言うだけだから。…ごめんなさい。」



まさかとは思ったが、赤司くんが手を回しておいてくれたらしい。
未だに不機嫌な顔をしているが、紫原くんはその表情を直すつもりはないらしい、というかたぶん自分が悪くないのになぜ謝らなければならないのかと納得いかないのだろう。
それでも謝ってくれた彼を褒めてやるべきだ。
私は隣に突っ立ってそれを聞いていた奴の脇腹をつついてやる。
それでハッとしたのか、青峰くんはぼりぼりと首を掻きながら紫原くんの言葉にちゃんと返事をしてくれた。




「あー、なんだ。俺も悪かったし、だから、このことは無かったことにしようぜ。」



まったくどちらも大人じゃ無いんだから、と軽く苦笑い。
とりあえずこの圏は一件落着したようだったのだが…。




「?」




ふ、と何か視線を感じて黄瀬の方を見るとどうやら彼もご機嫌斜めのご様子。
普段なら近づけば笑顔でこっちを向いてくれるかそれかいきなり抱きついてくるかどちらかなのに、今日はそれすらもない。
少々不安になってしまった。




「なんかあった?」




私が声を掛けたことで私の存在に気がついたのだろう。
少しビクッとしてから私の方に体を向けてくれた。
が、彼の表情は以前変わらない。先ほどの紫原くんと一緒、とまでは言わないが、苦しそうな、それでいてイライラしていそうな、色んな思いが入り交じってこんな表情を生み出しているような、そんな感じに捉えられた。




「別に、なんでもないっスよ。つーかそれだけっスか?んじゃ俺練習するんで、放っておいてください。」




と、彼はそれだけ私に伝えるとクルリと向きを変えて再びゴールに向き合ってしまった。
こんなことは出合ってから一度も無かった。
そしてそんな力の無い彼の目をみるのも。
ぐっとこぼれそうになる涙をこらえて、私は仕事にもどった。
私情と仕事を混合してはいけない。それは昔の私のポリシーだった。
だからこんな時でも負けてはいけない。
スーハーと深呼吸してから私は気持ちを切り替える努力をした。
心の隅で黄瀬くんの心配をしながら、いつもと同じ笑顔を浮かべるよう努めた。

そして部活は終了する。
今日はチーム戦で3on3をやった。
赤組には赤司くん、黒子くん、黄瀬くん、白組には緑間くん、紫原くん、青峰くんのなんだか夢のようなチーム戦。
その二組の試合はやっぱり息をのむようにすごくて。
でも彼等は練習では本気を出してはいけないらしく、これは決して彼等は本気で戦っているわけではない。
それでも、彼等の力は圧倒的だった。
気がつけば、周りで練習していた1軍の選手もその試合を見入っていて、最後にはみんなで観戦していた。





「お疲れ様っしたー!」




三日目にしてようやくさっちゃんが付きっきりじゃなくてもマネージャーの役割を果たせるようになったので、部活の時にはあまり頻繁に会うことはなくなった。
それでもなんとか一人前感を感じるようになれたことで私の中で達成感みたいなものがあった。
会えないのは寂しいけど…まぁそれでも私たちは互いに愛し合っているので更衣室に行くとき、帰る時はいつも一緒なんです!いいだろ!うらやましいだろ!
だから帰りに今日黄瀬くんが様子がおかしくって、っていう話をさっちゃんにしてみようと、思っていたのに…!





「ごめん奈々ちゃん!!!今日先生に頼まれごとされてて一緒に帰れないから先帰ってて…!!」





本当にごめん!と手を合わせて謝ってくる彼女をなだめ、早く先生のところにいってあげな、と声を掛けると彼女は私を一回抱きしめてから職員室へと掛けだした。
そして彼女の後ろ姿に手を振りながら私は小さくため息をついた。





「どうした、今日は元気が無かったみたいだったが何かあったのか?」




「うひゃっ!?」




誰もいないと思ったのに、気がつけば後ろには赤司くんがいた。
く、黒子くんでもないのに彼の存在に気がつかないとは…というか赤司くんいつからそこにいたんだろう…?




「結構前からいたぞ、桃井がごめんと謝っているところからかな。」




「それ思いっきり最初からだよね?」



そうなのか、と彼はクスクスと笑う。
こうして笑っている分には恐くないのだが…。というか私の心の中読んだよねこの人…。
でもそんな私は今誰かに話したくて仕方が無かった。
人に話すことによって自分の中で整理できるっていうし、しかも赤司くんなら頭回るし的確なアドバイスくれそう、と彼に今日のいきさつを話してみることにした。
といっても、先ほど体育館の中にはいったところのお話なのだが。
黄瀬の様子がおかしいし、いつもならもっとフレンドリーなのに私に対して何かいつもとは違う少し恐い雰囲気を感じた、と伝えた。
赤司くんは黙ってその話を最後まで聞いてくれた。
そして、あごに手を添え何かを考え始めたようだ。




「…まさか涼太が、奈々に反抗するとはね…まだまだあいつも子供だったというわけか…。」



「ん?なんかいった?」



彼がボソリと何かを言っていたような気がするのだが、それは私の耳には届かず、もう一度聞き返してしまう。
普段の彼ならばそれでたぶん「頭が高いぞ」とかいって怒るんだろうけど今日は気分がいいらしい。




「あぁ、なんでもないよ、こちらの話だ。でもちゃんとこんどから話は聞くように。」




「は、はーい。」




少し命拾いしたと思った。
いや、彼ほんとすごいんだって、威圧感って言うかなんて言うか。
他の人たちに比べて身長もそこまで高くないのに、圧力って言うのかな。
じっと彼を見つめればスッと切れ長の猫目と目があう。
まさか目が合うなんて思っていなかったから私は思い切り目をそらしてしまった。
微妙に気まずい二人の間を流れる。





「奈々は照れ屋さんだね、俺と目が合っただけで恥ずかしくなってしまったんだろう?」




「えっあ、ぅ…。」



彼の言葉には否と言わせぬ力がある。
本来ならば年上の私だが、目の前のこの小さな彼には適いそうもない。
ジリッと近づいてきた彼の顔を見ることができなくて、少し顔を赤く染めながらうつむく。
なぜこんな時自分の後ろに壁があるのか!
トンッと赤司くんに壁ドン…ドンではないけど…壁ドンスタイルを取られてしまって逃げることができない。
いや、普通だったらこの状況どきどきするけどなんかちょっと恐いなって思った後だしでも…っ!





「何やってんだ?」
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