ブルーすかい。

□黄色と青と赤色と
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「なぁ。」




みんなと楽しく談笑している中、隣から声が飛ぶ。
その瞬間教室のざわめきがぴたっとやんだ。
いや、何この、いかにも番長がしゃべり出したこえぇえええみたいな雰囲気辞めてよというか誰か助けてください切実に。
いやぁ、隣っていうとやっぱりあの青峰くんな訳でありまして!




「は、はい、なんデスカ…?」




「放課後、ちっとツラ貸せよ。」




ウヒャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!
こっ、これは確実になんかしちゃったパターンだよ!?え!?
いや、いまさっき始めてあったんだけど私何かしましたかね!?
内心びくびくしているのがばれてしまったのか、目の前のガングロ青峰くんは少し申し訳なさそうに頭をガシガシと掻いて私から目をそらす。



「あー、なんていうか、その、取って食ったりはしねぇからよ。
 ちっと困ってて、その、怖がらせちまったみたいで、悪ぃ。」



余りのかわいさに心の中で悶絶する奈々さん。
い、いやだって、青峰が!あの青峰が素直に謝った!
さっちゃんに言われて渋々謝るようなあの青峰が!
ポカンとした顔をした周りの人たちを見る限りこの状況はかなり珍しいのだろう。
何かが起こる前兆じゃないか、とか今日体調でも悪いのかなぁ、とかそんな声がザワザワと教室を埋め尽くす。
それでも彼がみんなから嫌われている訳では無く、彼も彼で「うっせ!」と言い返しているところを見るとやはり皆仲が良いのだろう。

…なんかいいなぁ、こういうの。

フフッと私が笑えば青峰くんが顔を上げてこちらを見る。
そりゃ、なんかさっきまでビックビックしてた女子がいきなり笑い始めるんだからちょっとは不思議に思うだろう、私だってそんな子が居たら頭大丈夫かなとか思ってしまう。
いや、そんな私の心の中が通じたのかどうか知らないけどさ。




「…おまえ、頭大丈夫か?」




私が思ってたことそのまんま言わなくても良くない!?
笑顔だった私の顔はそのまま、何か黒いものを背負い始めたと気がついたのだろう青峰はハッとした顔をして席を立って後ずさりを始めた。
負けじと私も席を立ち、そんな青峰を追跡する。
ジリジリと後退する巨体と、ジリジリと全進する小人。
まぁ、はっきりいってこういう子だって分かってたからいいけど、ちょっとくらいは叱ってやってもいいよね!
壁際まで追い詰めたところで青峰はべったりと壁にくっついていた。
そんな彼にズイと顔を近づけ、ニッコリと最上級の笑みを向ける。



「帰りなら大丈夫だよ、青峰クン?」




黒い笑みを間近で見た青峰くんはその場でガタガタと震え、その瞬間耐えきれなくなったのか教室のあちらこちらから「奈々が青峰をアアアアアアアアアアア」という悲鳴があがったことは言うまでもない。







******************





その後の授業も少しだけ尾を引いた。

始業式を行ってから担任の思い出話や惚気を聞いたり(今年で結婚してまだ1年らしい)さらにはクラスの中の一人がモノマネ大会をしたりして、何でもありだなこの学校、とか内心突っ込んでいたのは内緒だ。

さて、そんな私の隣の青峰くんは、というと。




「あ、あの、ごめん、ほんと、マジ悪ぃ。」



ずっと私に謝っていた。
いや、もういいんだけど…。
少しイメージと違う青峰を見ることが出来てちょっと面白かったりした。
最初のあのガン飛ばしをしていた彼は何処へと消えたのだろう。




「いーよ、いーよ、私も青峰くんの立場だったらおんなじこと言ってただろうし!」




にこっと笑顔を見せると、先ほどではないにしろびくついている彼。
い、いやぁ、これはやらかしてしまいましたな…。
そうこうしているうちに3時限目が終わり、帰りのSHRで解散ということになった。

そういえば、黄瀬に連絡を入れてないため、たぶん黄瀬は私がどこのクラスか知らないはずだ。
青峰に聞けば黄瀬のクラスは分かるはずだが、彼のクラスに行ってもし取り巻きのおなごたちに見つかってしまったらさぁ大変!てなことになりそうなので、どうしようと悩む。
いっそのこと青峰と一緒にいってしまえばいいのではないか!とちらりと横を見ればなにやら考え事のご様子。
というか、帰りにツラ貸せって言われてるし、もしかしたら部活に連れて行ってくれるのかも知れない、なんて淡い期待を抱きながら。

担任の短い諸連絡の後、クラスは解散、みんなてんでに教室から出る。
廊下からなんだかキャーキャーという黄色い声が飛び交っているが、一体なんの騒ぎなのだろうか?
ひょいっと教室のドアから顔を出してみると、そこに居たのはやはりキラキラと愛想を振りまく黄瀬であった。



「あ!奈々ちゃん!」



早速主人を見つけたかのようにこちらにタッタッと走り寄ってくる黄瀬。
ちょいまち、おまえのその後ろに携えている女達からの目線が恐いからこっちこないでマジ!
それが恐くてサッと教室の中に入ると「なんで逃げるんスか奈々ちゃんんんっ!」と廊下から声が飛んでくる。
知らん、私はあんなやつ知ら「奈々ちゃん!」アアアアアアアもう!
背中越しに廊下から飛んでくる声にバッと振り向けば、シャララッと笑顔をこちらに向けてくる黄瀬を筆頭に後ろからなにやら黒いオーラが立ちこめている。
一瞬で涙目になる私はどこかに隠れる場所がないかときょろきょろし、ちょうど良いものを見つけた。




「黄瀬うっせぇからさっさといっちょ、おい!?」



「青峰くんんん、頼むようぅううう、ちょっと助けてよぅうう!」



「なっ!?ちょっ、青峰っち!奈々ちゃんをこっちに渡すっス!」



サッと素早く見つけた巨体…青峰の体の後ろに体を滑り込ませれば、小柄な私の体はすっぽりと隠れ前からは全く見えなくなってしまう。
いきなりの行動に驚いたのか青峰はなんだか挙動不審である。
そんな私たちを見て黄瀬は恐らくムッとしているのだろう、なんか声で分かる。
というかお気に入りの玩具取られて駄々こねてる子供みたいでなんだかおかしい感じもするが。
ちらりと私の方を盗み見る青峰にあっ、と思い出したように私は笑顔を向ける。




「そういえばなんか私に用があるんだよね!ここじゃちょっと騒がしいからどっか別の場所いこっか!」



なんだか利用しているような感じが否めないがそれは致し方あるまい。
だって!あの黄瀬の後ろの女の子達恐いんだもん!(裏声)
いや、裏声なんて出さなくても恐いのは変わらないんだけどさ…。

私のその必至さが伝わったのか、ちらりと黄瀬の方を見てから私の手をぐいと引く青峰くん。
…ちょっと顔が赤い気がしたのは気のせいだろうか。
そのまま穏便に教室から廊下、そしてどこかへ立ち去ろうとしたのだが、やはりそうもいかず。




「あああああああああ!!!!!!青峰っち!なんで奈々ちゃんと手繋いでるっスか!!俺だってまだ繋いだことないのに!!!!」




やはり追いかけてきた。
必死に走る私と青峰。いやぁ、てか青峰氏足速いでござるようぅう!
足のリーチ的に段々と青峰に引っ張られ何度かこけそうになったところでふわっと自身の体が地面から浮いた。
それもこれも青峰が脇に私を抱え込んだからなのだが。




「つかなんで俺黄瀬から逃げてんの!?」




いやぁ、悪いことしたと思ってるよー…アハハ。
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