Zzz

□序章
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部活からの帰り道。
今日は朝からあいにくの天気で、我がエース様に「今日はチャリなしなー」と連絡を取った。
まぁ、そんなこんなであまり家から離れていない学校まで徒歩で向かい、そこから部活をし、くったくたになってまた同じ道を徒歩で歩く。

小学生の時の頃と、高校生になった今、別にこれといって代わり映えのしないこの帰り道で今日は一つだけ違うところがあった。


(…泣いて、んのかな…あれ)


暗闇ではっきりとはわからないが、小さな女の子が傘もささずに肩を震わせながら歩いている。
最初は小学生かなにかかと思ったが、よくよくみれば結構しっくりとくるスーツ姿に「あぁ、社会人か」と妙に納得してしまう。
ただ、社会人と言ってもこんな夜遅くに女性ひとりでしかもびしょ濡れで歩いているのは感心しない。
いつもなら全く関係ない人ならばスルーを決め込む俺も、なぜか今日は声をかけてみようと思った。


「…どうしたんすかおねーさん、風邪ひきますよ?」


とりあえず、もう手遅れかもしれないが傘を傾けて彼女を傘下へと。
急に声をかけられたことと、急に雨が止んだことに驚いたのか、少々ぎょっとした顔でこちらを見る。
ありゃ、案外べっぴんさんじゃねーの。
随分と長い間泣いていたのか少々腫れぼったい瞼に赤くなった瞳。たまにひくりと動く鼻を見ているとうさぎを連想させる。
ニコニコと俺が人当たりの良さそうな顔をしていたからか、それとももうすでに決壊寸前だったのか。
目の前の小さな女の人は俺の顔を見るなり泣き崩れてしまった。


「えっ!?ちょっ!?」


別に周りに人がいるわけではないが、さすがにこの状況はまずい。
俺が泣かせたみたいになってんじゃねーかやべぇ。
とりあえず、雨をしのげる場所はと周囲を見回してちょうど屋根付きのバス停があったから、そこへと彼女を誘導し落ち着かせる。

数分後、彼女はようやく落ち着きを取り戻し今度は俺にふかぶかと頭を下げる。


「ごめんなさい、本当にごめんなさい。見ず知らずの方に泣きついてしかもここまで面倒みてもらって。」


「いやいや、いいですって!でも、こんな時間にフラフラしてっとさすがに危ないんで気をつけてくださいね!」


「…はい。」


俺もただ泣いてる人をなだめてタオル貸して上げただけだし!そんな頭を下げられるほど大層なことはしていない。
…真ちゃんにはこういうところ見習って欲しいけどね。


「家どのへんすか?送りますよ俺!」


下心がないといえば嘘になる。
けど、時計を見ればもう夜の9時だ。
子供じゃないんだからと笑い飛ばされそうだが、都会の夜って危ないんだぜ?
でもそれより、こんな出会いをしたのだ、また会えれば…と思ってしまうのは俺だけじゃないだろ?…しかも可愛いし。
だが、俺のそんな考えは次の言葉によって簡単に砕け散る。


「あ、ここから歩いて2分くらいのところですし平気ですよ!ありがとうございます。」


あっちゃー俺フラれちったー☆
まぁ、確かに見知らぬ男子高校生に家まで送りますなんて言われてそれでお願いするってのもそれはそれで危ないからここでフラれてよかったっちゃよかったけど…なんか複雑だよなー…。

だが歩いて2分。その間また濡れてしまうのは忍びない。
俺の家もそこまで離れてないし、ていうか別に俺男だしなー…。
ということで。
スッと彼女の手に俺の持っていた傘を握らせ、突き返されない程度に瞬時に距離をとる。


「えっ!?あ、あのこれ…!?」


「いーですって!またあった時にでも返してくれりゃいいんで!じゃっ!」


案の定彼女は持たされた傘と俺を交互にみてあたふたとしている。
俺はそんな彼女にニカッと笑顔を向けて全力で手を降り、そのまま、自分の家の方面に向かってバシャバシャと足音を立てながら走っていく。
これは俺なりのわがままだ。
ああやって、次にまた会うフラグを立てておく。これはきっちり回収させてもらうぜ神様!
なんとなく、またすぐに会える気がして、俺はにやける口元を抑えた。

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