Zzz
□序章
1ページ/1ページ
「あーぁ、傘忘れちゃった。」
サアァーーーッと雨が降り続ける。
頬を伝う液体。
本日、6年間付き合ってた彼氏に突然別れ話を突きつけられた。
「まぁ、出会いなんてどこにでもあるもんね。」
パシャッと足元で水が跳ねる。
髪の毛からポタポタと水が垂れる。
「…っひっぐ…っく…。」
どうしても、目からこぼれ落ちるしょっぱい水を止めることができなくて。
何度も何度も拭っては、またこぼして。
だが。
「…?」
不意に。
「…どうしたんすかおねーさん、風邪ひきますよ?」
雨が止んだ。
「それでね!!!!ほんっと王子様みたいに現れて!私にタオルと傘渡してくれてそのまま別れちゃったんだけど…!」
次の日。
私、苗字名前は幼馴染の部屋へ遊びに来ていた。
「あー!もー!うっせぇ!俺受験生なの!わかる!?」
ガタンッ!とわざと大きな音を立てていすを引いてこちらに向き直る金髪の幼馴染。
宮地清志とは幼い頃からの付き合いであり、自分の勤めている学校の生徒だ。
特徴としてはずっと笑顔、だけど口からこぼれてくる言葉はもうナイフより鋭利かもしれない。
黙ってればかっこいいのに…と前思わずうっかり口を滑らせてしまったときはもうそりゃあ恐ろしかった。年下の癖に。
ちなみにそんな彼と幼馴染の私は秀徳高校に務める保健室のおねーさんだ。いやちがう、保健室の先生。
まぁ、彼を目の前に恐怖もせずに話せる数少ない人間のひとりなだけあって、彼は何も言わずそばに置いておいてくれる。
というか本当の彼は別にそんなに怖くもなく、ちゃんと見ればめちゃくちゃ優しい人だって昔から一緒にいる私にはわかりきってることなんだけど。
「わ、わかってますぅ!てかいいじゃん、まだ受験まで時間あるしよっしー頭いいじゃん、大丈夫だよ。」
ぶー、と唇を尖らせると鉄槌を頂戴した。痛い。
「その油断がいけねーの!ったく、俺に毎回毎回そんな話ばっかりしてよー…他にそういう話する奴いねぇのかよ。」
「…。」
「…ごめん、悪かった、聞かなかったことにする。」
私の沈黙を肯定と悟ったらしく彼は深々と頭を下げて私に謝ってきた。普段からそうしてくれればいいものを。
「まぁ、とにかく、その子なんだけど。うちの生徒、絶対、だって学ラン着てたもん。この辺で学ランの高校なんてうちの生徒くらいじゃない。」
「そりゃうちの学校のやつだな、確実に。」
「んで、名前聞きそびれちゃったし、傘とタオル返さなきゃと思って特徴覚えたの。」
「おう。」
「まず黒髪。」
「まぁほとんどの奴は黒髪だろうな。」
「…。」
「俺はこれ地毛ですゥ!!!!!元々!生まれつき!知ってるだろ!!!」
「…んで。」
「無視かよ。」
「前髪がね、触覚みたいで。」
「…おう。」
「つり目で瞳は灰色。」
「……おう。」
「あと、秀徳のエナメル持ってた、よっしーと同じやつ。」
「…………。」
そこで私は気がついた。
よっしーが頭を抱えて机に顔を伏せてることを。
「…よ、よっしー?」
「あのな、名前、これだけは言っとくわ。俺そいつ多分知ってる。いや絶対知ってる。」
「えっ!?!?本当!?!?」
名前を聞いていなかっただけに私はもうテンションだだ上がり。
もし本当によっしーの知り合いだとしたら会える可能性が上がる。
というか会わなければならない、だって傘とタオル返さないとだし。
け、けけけけ決して別に下心があるとかそんなわけじゃ…!
ボリボリとよっしーは頭を掻いてちらりと私をみる。
ふと目が合うと期待していたのがバレてしまったのか盛大なため息を頂いた。
「しかたねぇなぁ」とばかりに彼は机の引き出しを開く。
「…わぁ。」
「なんだよその目は、いいじゃねぇか、好きなんだよ。」
彼の机の引き出しにはぎっしりとアイドル「みゆみゆ」の写真が。
いや、彼ドルヲタって知ってますけれど…。
あのね皆さん、例え話をしましょう。
ドラマとかでよく一万円の束出てくるじゃないですか、あの総額100万円のやつ。
あれとね、酷使してる束が何束あるんだろう…いーち…にー…さ「数えんなアホ!轢くぞゴルァ!」
…頭を鷲掴みにされたので私は数えることをやめました…。
そしてそんなことしてる間に彼は一枚の写真を取り出した。
「お前が言ってるの、コイツだろ?」
ピッと差し出された写真の中に映る…
「言っとくけどこいつも地毛だからな。」
「いやいや、緑が地毛ってやばいでしょ、お母さんとお父さん髪の毛の色どんな?青と黄色?」
あ、ちなみに私入学式の日インフルエンザでダウンしてたんで新入生の顔ちゃんと見てないの☆
保健室に常駐するような子もうちの学校にいないしね!イッツ真面目!
そこ、先生の癖にインフルエンザかよって言わない!あいあむ人間!人間だからインフルエンザにだってなるわ!
というかこんな鮮やかなグリーンの頭なんてみたら一瞬で覚えるじゃん…インパクト強すぎだってば…。
「それなら俺どうなるんだよ…。」
「いやだって、おじさんとおばさん金髪じゃん。」
「まぁ…そか…、じゃなくて、コイツ。」
そして彼が指をさした方向を見るとそこには。
「そいつだ…!」
「はぁ〜…やっぱりコイツかよ…つかあいつ帰りがけに女に声かけるとか…ナンパかよ…明日シメてこよ…。」
「いや、彼何も悪くないから…というかそれ彼女いない僻みでしょちょっと…。」
「うるせぇ。」
まぁ彼はこう言う奴です。