短編小説
□小路
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「ここで僕は死んだのです」
彼はそう言って目を細め笑った。
そこは京都ならどこにでもあるような路地だった。
何かがある訳でもないただの道。
「正確には本光寺前で絶命したのですけどね。それでも僕が死んだのはここなのです」
それは魂の死なのか。志しの死なのか。
もしくは過去の仲間との絆の死なのか。
──どれにしたって彼の何かがここで死んだのだ。
例え命の終わりがここじゃないとしても、彼を形作っていたモノが死んだ。
それは間違いなく人の死なのだろう。
人は命があれば生きている、という訳ではないのだから。
「……貴方は恨んでないんですか?」
「恨む? 何を恨むと言うのですか? 今生のことではないというのに」
「それでも、覚えているんでしょ!? その時の痛みを、死の苦しさを!」
それは間違いなく私が経験したことのない苦痛だろう。
そんなモノを与えた相手を赦せるとは思えない。
私ならずっとずっと恨むだろう。
──なのに、彼は微笑んだまま首を横に振る。