短編小説
□お見舞い
1ページ/4ページ
風邪をひいた時にいつも考えるのは、それによって消費するエネルギー量と摂取すべきエネルギー量である。
もし消費量が勝れば俺は瞬く間に衰弱してしまうだろうし、摂取量が勝れば回復後に太ってしまう。
だからどんなにツラくともこの思考は止めず、常に最良値をキープせねばならない。
だが、そのためには1つクリアせねばいけない関門がある。
それは──
「良ちゃん、チョコ残しちゃメ! だよ?」
このナメきった発言をする“男”が持ってくるお見舞い品である。
もう1度言うが“男”だ。
例え髪が腰まであってサラサラだろうと、そこらの女子高生より可愛い顔していようと、制服姿のはずなのにスカートであったとしても。
コイツは“男”だ!!
「……もう。良ちゃんはいつもお見舞いに持ってきたお菓子食べないよね。そんなんだから虚弱体質なんだよ!」
「いや、関係ねーし。むしろ菓子ばっかのが身体にワリーし。てか、虚弱体質じゃねーし。つか、果物にしろよ!」
「そんなお金ないもん。だからお菓子なんだよ?」
「へー、金がないね……」
チラリと奴の背後を見ると、百均では売って無さそうなちょっとお高めな菓子が収まった袋が散らばっている。
ま、普通に買えば2千円は軽く超えるだろうな。
「……あれは全部家にあったヤツか?」
「違うよ! コンビニで買ってきたの! じゃなきゃこんなに持ってこないよ」
「そうか……」
聞くまでもなく今の姿のまま買いに行ったんだろうな。
限度をつっこむ以前にその当然さがなんとも言えない心境だ。
いや、それはさて置いて、
「その金があれば果物くらい買えそうだけどな」
「何言ってんの!? フルーツなんか5千円くらいするんだよ!」
「……え?」
「知らなかったの? フルーツはね、高いんだから高校生になんて買えないよ」
「ソンナクダモノ、オレシラナイ」
てかあるのか!?
林檎とかバナナは高くても数百円が限度だろ。
あれか。
メロンか。メロンなのか!?
いや、安いのもあったよな?
俺の小遣いでも買えた記憶あるぞ。
──もしかして、時期はずれか!?
「え、知らないの!? ……あ、でも、あんなの入院した時くらいしか買わないから知らなくても当然かも」
「ああ、確かにそれなら知らな──え?」
入院の時くらいしか買わない果物もとい、フルーツ。
それで頭の中に浮かぶのは1つだけ。
でも、だけど、しかし。
普通、果物と聞いて“あれ”を真っ先に思い浮かべる高校生がどこにいるよ?
それとも俺の知らないお見舞い用の高い果物でもあるのか?!