短編小説
□深夜の散歩
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「届きそうなのに!」
日課である深夜の散歩の帰り道。
偶然鉢合わせた優奈が突然ジッと頭上を睨み、手を伸ばして掴むような仕草をした。
一体何をしているのだろうと視線を辿れば、満天の星空が広がっていた。
「すげェ……」
「でしょ? だから少しもらおうと思ったの」
「もらうって何を?」
「もちろん星よ」
何がもちろんだ。
そう言い掛けて彼女を見れば、未だに空を睨んでいた。
おいおい、マジかよ……。
「あの、優奈さん? 空が遠いって知ってる?」
「当たり前でしょ。私もアンタも高校生よ」
「なら星が掴めないのも分かりますよね?」
「でもこんなに近くに見えるじゃない」
「えーっと……」
目の錯覚という言葉を知らないのだろうか。
いや、そもそも会話が成り立っていないような。
とりあえず、
「近くに見えてるからって、素手で取れるようなもんじゃないだろ」
実際は何万光年も先の輝きが見えているだけなのだから。