短編小説

□小さな約束
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窓越しの空に花火が咲く。
私のいるベットからすべては見えないけど、それでも鮮やかで綺麗だった。

永遠にこの時が止まればいいのにってくらいに。
終わりなんてなくなればいいのにってくらいに。

でもそれは無理なこと。
だからこそ花火が綺麗なんだから仕方ない。

だけど、終わってしまうのは本当に嫌だった。

この花火が終わってしまったら次は来年の夏を待たなくちゃいけないから。
それまできっと私は、生きていないと思うから。

でももし、私の勘違いなら――


「……来年も見れる、かな?」


花火が終わった窓からベットの脇の椅子に座る幼なじみに視線を移す。
そしたら彼は困ったような、戸惑ったような表情だった。

その理由がなんなのか、私は分かっている。

だけど認めたくなくて、勘違いだと思いたくて、私はまた繰り返す。


「ねぇ。来年も私は、三木くんと一緒にいられるかな?」


彼にとっても、私にとっても残酷な問い。
それでも信じたくなくてワガママに問う私はなんてヒドい女なんだろう。


「それは……」


それでも、肯定してほしい。
ただ私の言葉に頷くだけでいい。
嘘でもいいから。

そう願う中、彼が口にしたのは――


「……ゴメン」


――ツラそうな表情での否定の言葉だった。

そんな彼の表情を見ていられなくて私は少しだけ笑って、首を横に振った。


「ううん。私の方こそ、ゴメンね。ワガママだった。今、ここにいられるだけで私は幸せなのに……」


本当にそう思っている。本当の本当に。

だけど。だからこそ。
言ってしまうと自分の命が長くないこと認めてしまったようで。
もうこうして彼に会うことが出来なくなってしまう現実がすぐに来てしまいそうで。

私は泣きそうになって彼に背を向けた。
幸い、涙は出なかったけれど胸が苦しかった。

別にツラくなんてなかったのに。
心のどこかでは覚悟していた言葉なのに。
なんでこんなにも悲しいんだろう。

泣いたって事実は変わらないのは自分が1番分かっているのに。


「…………あのさ、約束しよう」

「約束?」

「うん。来年の夏、また一緒に花火を見ようって」


その言葉に私は思わず振り返った。

すると優しく微笑んだ彼がそこにいた。


「そんな、私は……」


次の夏まで生きられるか分からないのに。
もう終わりはすぐそこまで来ているかもしれないのに。
そんな守れる保証もない約束なんかしたって、あとがツラくなるだけなのに。

そんな思いばかりが心に溢れて、言葉が続かなかった。

同時に同じような思いを抱いているはずなのに、優しく微笑む彼に戸惑ってしまう。


「わかってる。だからこそ約束しよう。そして2人で約束を叶える努力をしよう」


真っ直ぐに私を見つめる彼の瞳は、本気の言葉なんだと訴えていた。

破ることが前提になってしまう約束。
それが叶える努力をすればどうにかなるものじゃないのは、お互い理解している。
そんなに現実は甘くないって私たちが1番知っているのだから。

それでももし、叶える努力をして少しでも何かが変わるなら。
実現しない可能性が高い約束を彼が少しでも叶えられると信じているのなら――


「――うん」


違う未来を見られるかも知れない。
絶望しかないバットエンドが少しだけ変わるかも知れない。

また、君の隣で過ごす優しい日々が訪れるかも知れない。


そんな夢をまた見られるなら。


「約束……守ろうね」


私と彼の指が絡み、優しく強く約束を誓う。

この約束が私の願いで、彼の望み。
そして私たちの小さな希望だから。

少しでも長く彼といる優しい夢を見続けるために、私は守れる努力をしようと思う。




end

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