短編小説

□約束
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太鼓を叩くような音が響く。
そして空が輝き、暗くなる。
その繰り返し。

その度ちらりと見える君の顔に、僕の心は束の間の幸せを感じる。


「来年も見れるかな?」


空を見上げていた君が、僕を見つめる。
それに思わず目を背けそうになった。

けど、君の瞳が揺れているのに気付いて、目を離せなくなる。


「来年も、私は三木くんと一緒にいられるかな?」

「それは……」


肯定してあげたいのに、君の言葉に頷けない。

そんなに簡単なモノじゃないんだ。
僕と君にとっては、とても重大な意味があるから。

簡単に肯定出来ればいいのに。
意味なんて気にせず、ただ頷ければいいのに。
そしたら君を少しでも救えるのに。


「……ゴメン」


僕には謝ることしか出来ないなんて。


「ううん。私の方こそ、ゴメン。ワガママだったね」


笑って君は、また空を見上げる。


「今、ここにいられるだけで私は幸せなはずなのに……」


悲しそうに揺れる瞳。
なのに、君は笑っている。

とても強い君。
だけど、いつも泣きそうな君。

そんな君に僕は何が出来る?
何をしてあげられる?


「……あのさ、」


意を決して、口を開く。



「約束をしよう」

「約束?」

「うん。来年の夏、また一緒にここに来ようって」


僕の言葉に、君の瞳が大きく揺れる。

だけど気にしない

気になるけど、最後まで言わなきゃ。


「そんな、私は……」

「わかってる。だから、約束しよう。そして2人で、約束を叶える努力をしよう」


約束は絶対じゃない。
だからこそ意味がある。

絶対じゃないから、叶える努力をしなきゃいけない。

だから、僕らにはピッタリだと思う。
明日すらわからない君と、僕には。


「――――うん」


長い沈黙。

それから周りの音にかき消されそうな微かな声。

君の顔を見ると、今すぐにでも泣きそうで、でも嬉しそうな笑顔だった。


「約束……守ろうね」


差し出された小指。
それに僕の小指を絡め、優しく強く約束した。



それがたとえ、今さえ変えられない程の小さな願いでも。
一瞬でも違った未来が見えたなら、僕らには十分だった。




end

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