短・中編小説
□他殺願望自傷癖。
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工藤 将幸には自傷癖がある。
別に刃物や火を使うようなことはしない。
自らの歯で、爪で、獣のような武器で少しずつ、確実に傷を増やしていく。
カニバリズムなんて物騒な主義ではないので、ただ只管、痛めつける。自分を。
生まれつき犬歯が一般より鋭くなっていて、小さい頃はよく舌から血が出ていた。
爪はいつでも使えるように長めにして、綺麗に鑢をかけている。
成る可く他人には見えない所、肩や足、腕が主だ。
体育の授業は受けない。着替えが、他人に傷を見られるのが嫌なのだ。水泳なんて以ての外。
傷の多い腕や足を極力外に晒さない為に、真夏の時だって長袖に長ズボン。
その所為で、彼の肌は陶器のように白い。
その白に痛々しいまでの赤は、よく映えていた。
きっと俺は誰かに殺されるんだ。
だって、こんなに自分で傷付けているのに、死なないのだから。
病死や老いは嫌だ。
そんなの、結局は「自」殺じゃないか。
病を患うのは自分の所為。
歳を食うのは自分の所為。
それは俺が「人間」だから。
「生」の責任を負っているのは紛れもなく、自分。
けれど、「死」の責任まで負いたくはないじゃないか。
だから俺は傷付ける。
歯で、爪で、傷付けることは出来るけれど、俺は死んでいません。
俺の自傷癖は他殺願望の表れなのです。
他殺願望自傷癖。
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